ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 01-3.死者は楽園の夢を見るか?

「九十九ヒロシです。……宜しくお願いします」

 そう言って頭を下げる九十九(つくも)ヒロシは名前こそ苗字ばかりで冴えないのだが、顔だけ見れば男の自分から見ても整った理想的な顔立ちだ。余談ではあるが、顔と言うのは左右対称であればある程、美形に近づくらしい。そして美しい顔立ちにあやかり、そんな遺伝子を残したいという本能が女にも男にも綺麗な相手を求めさせるんだそーな……。
 で、彼を見る女子陣の視線はと〜っても輝いていた。彼女達が一心に思う事が手に取るように伝わってくるようである――だが顔ばかりが男では……、とユウが居直ろうとするが教師の言葉にそれを阻止されてしまう。ヒロシはこんなインテリ系の見てくれの癖して勉強もスポーツも出来てしまう文武両道の完璧超人であるらしいのだ。……いやいや、そんなのってあるか? フツー。

 完敗、の文字が初めてユウの脳裏によぎる。ミイと争っている時、こんな風に負かされた気になった事等一度たりとあっただろうか? いや、無い。やはり上には上がいるものだ……、ユウは生まれて初めての本物の屈辱、というヤツを思い知らされた。

 そしてそんな嫌味すぎるお約束転校生・ヒロシはノンフレームの知的な眼鏡が似合う、いかにも博識な感じの見た目だ。漫画のキャラなんかにいそうな、眼鏡をかけた美形タイプというか……少女漫画から抜けだして来たようなその外見に女子達は当然きゃあきゃあ熱を上げているようだ。
 ヒロシはユウの隣に腰を掛けると、ユウを見て一度ぺこりと小さく頭を下げた。とりあえず礼儀は弁えているらしいのだが、ニコリともしない愛想の無い奴だなぁー、と思った。

 まだ一切の会話もしていないのに決めつけてしまうのはいささか悪い気もするのだが、彼とは合わなさそうだなぁ。まあ未知の部分が多いし多分なんだけど、お友達になれそうなタイプではないだろう。出来れば深く関わり合いになるのはよしておこう……と決めた矢先に、レディ・コングこと担任からの頼まれごとだった。

「九十九くんに学校を案内してあげてくれない? 簡単にでいいから」
「エ……俺がっすか?」
「ええ。あなたって人見知りしないしすぐに誰とでも仲良くなれるでしょ。出来れば先生がしてあげたいけど、やっぱりクラスメイトの方が彼だって嬉しいでしょうし」

 おだてられてすっかりユウは調子に乗ってしまった、のである。二つ返事でそれを了承してヒロシを校内へと連れ出す。ヒロシは特に嫌な顔はおろか喜ぶような顔さえもせず、黙ってユウの後についてきた。

「えっと、こっちが視聴覚室で〜……あっちはパソコン部屋。で、その横が……何だろ、進路相談室だったかな」

 とりあえず目に付く教室を全て教えながらユウはヒロシを連れ学校中を歩いて回った。途中女子生徒からの羨望の眼差しをいくつか受けたが、まあ俺じゃなくて背後のコイツなんだろーなー……と振り返ると、相変わらずほぼ無表情・ニコリともしてくれないポーカーフェイスのヒロシは変わらずそこにいた。
 それにしてもほとんど自分ばかりが喋っていて、ヒロシからの応答はほとんど無いに等しく……あ、段々と虚しくなってくる、コレ。とりあえず空気が重いので脱・沈黙しようとユウは得意の笑顔を出来る限り持ち寄ってヒロシに話しかけるのであった。

「えーと……ヒロシくんって、その……、か、カッコイイっですねー。背も高くて、俺ギリギリ百七十あるんだけど。羨ましいなぁ」
「……どうも」
「あー、あーと……勉強も出来るなんてすごいなぁ。部活は? 何やってたの? スポーツも出来るって話だったけど」
「――特には」

 眼鏡のレンズ越しに見えるその理想的な形をした瞳は醒めきっていて、ひどく老成した印象をユウに与えている。喋り方にしてもそうだったけど、妙に堂々としていて。同じ年であるにも関わらずどうしてこんなにも彼は落ち着いているのか……ユウには到底真似できない芸当であった。

「しゅ……、趣味は?」

 まるでお見合いの様な会話に思わずユウは自分で自分に突っ込みをしそうになってしまった。

「図書室――」

 その問いかけには答えてはくれず、ヒロシが突如として足を止めこちらを振り返った。

「え?」
「……図書室、はあるんですか? この学校に」
「そ、そりゃあるけど。なな、何故に?」 

 初めて彼の方から接触してきたので、驚いて口籠ってしまった。ヒロシは気難しそうな顔をもっと険しくさせてじっとこちらを見つめてくる。……何だか自分が悪い事でもしたのではないか、と思いユウは唾を一つ飲んだ。

 ヒロシはやがてその唇をうっすらと開いて次の質問をして来た。

「ネクロノミコン……って、知っていますか?」
「……え?」

 まるで聞いた事の無い言葉だった。目を点にさせてハテ、とばかりにユウはヒロシを見つめ返した。

「ね、ネクロの、ミカンって?」
「――いや、無いならいいんです。失礼しました」

 途端にヒロシはまた視線をさっと逸らしてしまった。何だか馬鹿にでもされたような気になり、少しばかり戸惑ってしまう。やはりこういったエリィートでおプライドの高そうな人種とは合わないのだ……と改めて痛感させられてしまった。無念なり。

「今の事は忘れて下さい」
「……??? え、あ、ああ……うん」

 一方的に会話を中断させられてもう何が何やら分からないのだがとにかく、そこは彼の顔を立てておく事にした。

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -