ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 01-2.死者は楽園の夢を見るか?


「転校生?」
「そうらしいの。珍しいわよね、こんな時期に」

 女子生徒達の噂でそれを知る事となった、自分達のクラスに転校生が来るんだと言う。転校生という言葉にユウはあれやこれやと妄想を張り巡らせてみるが、次の一言で一気に現実へと引き戻される。

「かっこいいらしいの、それが!」
「げ。男かぁ〜……」

 ちぇっ、とつまらなさそうに軽く舌打ちしてみせてからユウはふと思った疑問を口にした。

「……ん? そういや何で顔知ってるんだよ」
「今朝職員室で見たんだってさ、里穂達が」

 大体こういうのはズバ抜けてかっこよくなくとも、転校生という肩書きだけで大袈裟にかっこよく見えてしまうものだ。ある程身長があって、太すぎず細すぎずの体格、顔もそこそこの十人並みでさえあれば『カッコいい』の部類に入ってしまう。
 ユウは内心で「ま、どうせ大した事ないに違いない」……といった風にせせら笑うのだった。

 いつものように、教師のやってくる待ち時間を利用してスマホでこそこそ漫画を読むのはユウである。真面目に席に腰かけて、予習を怠らないのはミイだった。その横で昨夜の夜通し麻雀が応えたのか、体力のないヤブは突っ伏してぐったりとグロッキー状態。更にその後ろでは、一時間目サボるから、と早々に離脱宣言をしていなくなった石丸の空白の座席……。

「おはようございまーす。はい、ちょっと静かにネー」

 このクラスの担任は中年のおばちゃんだ。化粧の濃い、ちょっと意地悪そうなオバハンである。事実、女子生徒にはとても厳しく当たる(特に美人な子、あとカワイコちゃんとか、主に目立つ子とかには)が男子生徒にはクソ甘い。ちなみに彼女はその昔、ハンドボールでブイブイ言わせた経験があるらしくとても肩幅ががっしりとしている。それも相まってなのか、生徒達からは『レディ・コング』等と道徳もへったくれもないあだ名を授けられているようだ。

 ユウがふと顔を上げて見渡したが、転校生らしき影は無かったので、はて、と少し小首を傾げた。しかしまあレディ・コングの嬉々とした顔を見ればすぐに分かる事だがその情報は嘘じゃないんだろうとは思う……。

「皆様もう風の噂で小耳に挟んだ人もいるかと思われますけど、今日からクラスに新しいお友達が増えるのですよ。ハイハイ、皆様仲良くしましょうね〜」

 子どもが見ても分かるくらいにニコニコとし嬉しそうなレディ・コングだったが……そういえば、いつもはうるさいのに今日はまた何をしているのかと思いきや、ノラがせっせと熱心にノートにペンを走らせている。
 振り返ってそんなノラの様子を見つめながら、ユウが内心『珍しいなー』なんて思う。

「……まーまー門倉君、お上手です事〜。私が美術の担当だったら百点満点さしあげたいわね〜、ンーーー」
「うげっ」

 教師にひったくられたそのノートには『レディ・コング』と思しき似顔絵が描かれているのであった。ノラが慌てて愛想笑いでごまかしたが、今しがた彼女も言ったように男子特有のガタガタな線で描かれている割にはしっかりと特徴を捉えている、という。

 その様子を見つめながらユウだけじゃなくミイもヤブも内心で「やっぱりね……」と思うのであった。ミイに至っては大袈裟にため息までセットだった。




ここも初版にはなかった部分。
ノラってばいけない子ですね。


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