▼ 05-1.僕の名前は狂気の救世主
これまで様々な特訓は受けて来たが……まこと、こんなのは初めてであった。こんな一方的な攻撃、反撃もせずに受けてやるばかりの暴力というのは。
ヒロシは好き勝手にぶん殴らせておくのもいい加減腹立たしくなったが、ここは耐えるより他無かった。武器も綺麗さっぱり取り上げられているし、素手でやりあうのは賢明だとは言い難いだろう。
「……コイツ泣きもしねえし喚きもしねえし……面白くないな、もう少しサービスしろよ僕ちゃん」
口の中の切れ具合を確かめたかったが、両手の自由が利かないので諦めた。ヒロシはに自分のすぐ前、ムカつくにやけ面で関節を鳴らす大柄な野郎を見据えるのだった。
「田所さんよ、ほんとにこんなガキ一人で俺達出世するンスかね?」
「おい。殴りすぎて生贄に差し出す前に殺したり失神させたりするなよ、伸びたままだったら何ていうかアレだ。えぇっと……うん、エンターテイメント性にかけちまうだろ」
その言葉に大柄な男がつまらなそうにヒロシから離れて行く。
「――そうだよ。あとあんまさ、顔に傷つけないで欲しいな」
ヒロシの背後で、飄々として笑うのはノラだった。
「……貴方には失望しましたよ、本当に」
そのヒロシの突き放すかのような声に、ノラが喉の奥で笑うのが分かった。
「お? 失望? てことは期待してくれてたんだ。ヒロシちゃんに期待されてたなんて、やー、嬉しい話が聞けた」
ヒロシの肩から顔を覗かせながらノラがくすくすと笑った。
「……ふん、こちらとしちゃあ手数の駒が一つ減ったくらいにしか思ってませんけどね」
「ありゃま、そうなの? ちょっーと傷ついたかなそれは〜」
本当にそう思っているのかいないのか相変わらずのへらへらした表情でノラが目配せをする。ヒロシが口の中に溜まった血液ごとのノラの頬にぺっと吐きかける。
「オラてめえ、若様に何してやがる!」
先程まで半ばサディスティックなまでにヒロシを殴っていた大柄な男がヒロシの胸倉を掴みあげたかと思うと今までにないくらいに強烈な右ストレートを食らわせた。
――やば、落ちそう……
もろに食らったせいかヒロシも流石にふらついたようだ。
「ああ〜、いいよいいよ」
ノラがさっと取り出したハンカチで頬を拭いながら笑い笑いに止める。のーんびりとしたその口調は、本当に頓着していないような口ぶりであったが――果たして、その真意はどこにあるのだろうか。
「んーとお前、名前はなんつんだ?」
「はっ。ヨシオカであります、サー。彼女兼お嫁さん募集中の独身であります、サー」
「サーはつけなくていいよサーは。……よし、お前には『九十九ヒロシを倍殴った英雄』として父さんに報告してやる。喜んでいいぞ、ついでに伴侶探しも頼んでおいてやるよ。じゃ、参考までにどういうコがタイプ?」
「キレイというよりは可愛くてちょっと天然でついでに巨乳のバージンが好みであります、サー!」
「……そう都合良くいるかねぇ……可愛い巨乳の処女なんて……、あとサーはいらないって。そういうの堅苦しいからやめて、マジで」
敬礼のポーズを決める男の額をツンツン指先でつつきながらノラが軽めの調子で呟く。
「――じゃあね、後は頼んだよ。ヒロシ君。また、後で……ね」
ノラの表情にはどこか意味深な笑いがあった。
「……」
ヒロシは黙って部屋から消えて行くノラを睨みつけるばかりであった。
はじめはこの辺でえろいれるつもりだったのよねー
モブ×ヒロシ的な?
でもあれじゃん。
最強キャラが地にひれ伏すのって
あんまり好きじゃないんだよね
ってお前の性癖は知るかって話だな
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