ナイトメア・シティ | ナノ


▼ 01-6.君を死なせたりなんかしない

 その場所から立ち去る前に、ヒロシはしゃがみこみ荷物から銃のマガジン等を取り出して早速ベルトに装備していた。常に万全の体勢にしておかなくては、ちょっとの怠慢が命取りに繋がるわけで。
 手を動かしている時に、荷物から何かが滑り落ちたのに音で気がついた。キーリングのつけられた車の鍵で、跳ね馬のエンブレムが刻まれたいかにも高級車らしい見栄えを曝していた。ヒロシは持っていた事さえ忘れているのに気付いて、慌ててそれを手にした。

――どうせなら腰にでも提げておくか……

 ちゃら、と微かな音を立てるその鍵を見つめながらヒロシはふと背後に強烈な違和感を覚えた。……違和感、いや違う。これは――額から冷や汗が伝うのを見送り、ヒロシはその屈みこんだ姿勢のままで車の鍵を右手に握り締めていた。強く握るあまりか、ギザギザの部分が手の平に痛いくらいに食い込んでいるがまあともかく――、

 ヒロシはいつもながら無表情のままに、その気配が確実にこちらに近づいてきているのを悟った。……唾を飲んだ。ホルスターの銃に指を伸ばせばすぐに対応できるだろうが、その来訪者は恐らくゾンビではない。

 じゃあ、後ろにいるのは生きた、人間。

 ヒロシはもっと厄介な奴だ、とこちらがあえて気付かないでいる風に装ったのだった。動き回る死者ではない、そいつが一歩、また一歩と息を潜め足音を殺して近づいてくるのを、ヒロシは待った。

「……っ」

 ギリギリにまでそいつが近づくのを見計らうよう、ヒロシはその半身を一気に翻すのと同時に起き上がり、右手に握らせたままの鍵の先端部分を剥き出しにその拳を振るった――が。

「うわっと! ちょ、危ないからマジで!」

 寸でのところでかわされた拳と、その尖った鍵。目潰しでも狙っていたのは明々白々だが、その相手が彼でなかったらと思うと……悪びれる様子もなくヒロシは突きを繰り出したその腕を脱力気味に降ろした。

「……何です。また貴方……」
「うわー、こっえー。危うく俺の目の玉破裂するとこだったってば、えぐい事すんね〜ぇ」

 見た目によらず、と付け加えて笑うノラの顔が今は只鬱陶しくて仕方がない。……というか、こいつは何だか信用ならない――ヒロシは警戒心を露に肩を竦めた。

「まぁ知ってたんだけど……って、露骨だなぁその顔! もうちょっと嬉しそうな感じでもいいじゃん!」
「――貴方だけはどうも馴染めません、初めの時から思ってましたけど」
「それ女の子からよく言われる〜。俺って女の子からすると一目見て惚れるっていうよりも、気付くと好きになってるタイプの男なんだってさー」
「すっごくどうでもいいです……、それより何ですか。人を試すような近づき方をして」

 理由があったんでしょう、とは言わずとも伝わる。訴えるような視線を受けて、ノラはちょっとオーバー気味に小首を傾げてからニンマリと一笑した。

「まあ、そりゃあコソコソ近づく理由があるからでしょうね〜?」
「……で、結論は何ですか?」
「ありゃ、早い。早い男は嫌われるよぉ、ヒロシちゃん。……ま、いいけどさ。じゃ、希望通りにとっとと済ませるかな」

 握り締めた鍵からは手を離さないので、やっぱりヒロシは警戒心の塊なんだと思われる。女の子を口説く時とはまるで違う難易度の高さに、ノラはまたニヤつきつつも今度こそ本気で怒られそうなので必死に真剣な表情に切り替えてみる。顔面に頑張って伝えてやるわけだが、今のノラにはハートマン軍曹に罵られるほほえみデブの気持ちがよーく分かる……と、まあふざけるのも大概にしておいてノラは少しばかり声を潜める調子を出した。

 いつになく真剣な眼差しにも見える彼の様子に、ヒロシも少しばかり聞き入るような姿勢を見せてくれたらしい。黙ってノラを見つめ返せば、ノラがゆっくりとその唇を開いた。

「あのさ、気にならない?……あの宗教のコト。こーりんきょー?」
「……突然ですね」
「うんうん。……ベタな発言で悪いけどさ、こういう時一番厄介なのは人間だと思うよ」
「……」

 彼が話すとそれも説得力が欠片もないと言うか――、ヒロシはそんな彼のやはり読めない表情にため息でも吐こうかと思った。が、やめておいて黙って今から語られるのであろうその続きに耳を貸した。

「あの教祖様はまだ俺にとっちゃ……あー、言い方は悪いんだけど理解のいく部類だよ。考えてる事が顔に出てるって意味でね。単なる煩悩の塊っていうだけのまだカワイイもんさ」

 その言い方にヒロシはふと違和感を抱いた。――が、特に反論は今は伏せておいてまだ黙っておく事にした。

「俺が怖いのはその下っ端の方、本気であれの言う事を真に受けた人間の方だ。……あいつら、起き上がった死体やあの変な格好した魔王だか何かよく分かんない存在の事を本気で『天が寄越した使い』だとか信じ込んでる」

 俯いたままでそれを聞くヒロシに、ノラは気付いているのかいないのか更にもう一言付け加えたのだった。

「――救えない奴らだよ」

 やや自嘲っぽく吐き捨ててから、ノラは息継ぎを一つしヒロシの前へと脚を動かした。

「俺が本当に恐ろしいのは思考の読めない相手だなァ。……ヒロシちゃんもそう思わないかい? 目は口ほどにモノを言うって言うけどさ、それさえも分からないというか――」
「貴方がそれを言うのは何とも解せない話です」

 そう言ってヒロシはノラを見つめ返すと、右手から左手に移動させていた鍵と共にその拳を彼のすぐ眼前ぎりぎりにまで突きつけていた。今度は避ける気配のない、というよりも完全に油断しきっていたのであろうノラはその時ばかりははっきりと動揺していたようだった。

 僅かにだがいつも眠そうに落ちている瞼がぎょっと見開いたのを、ヒロシは見逃さなかった。このままヒロシが止めなければノラの眼球はごっそり抉り取られていたわけになる……目玉にそいつがぶっすりと刺さる様を想像し、ノラは背筋がぞっとするのを感じないわけがない。

 ノラは先程までのシリアスな顔つきを捨て去り、またいつものような締りのない顔になってから苦笑いを浮かべた。降参でもするようにその両手を持ち上げ、乾いた笑いを押し出しながらノラは言った。

「……お、お見事な寸止めですね」
「ふざけるな。……貴方、その口ぶりだと何かしら見てきたような感じですね。大体、車の中で貴方は初めてあの宗教団体について知るような素振りを見せておきながら――今の台詞はどうやったら吐けるんでしょうか」
「あれ、そうだっけ?」

 とぼけるような口調で話すノラに、いよいよ本気で殺意さえ覚えてきた。

「ヒロシちゃん、俺にやり返したって内心で驕ってない? 家での件も含めてね」
「……僕はやられたら確実にやり返さなくては落ち着かない性分ですので」
「そういう驕りがまた油断を生むんだけどねぇ〜」

 呆れたようなノラの口調にいささか腹が立ちもしたが、まあ。ユウ達の声が聞こえてきたのでヒロシはその腕を一旦引っ込めた。ややこしい状況で、説明がつきそうもない。

 ノラの言う事を真に受けたわけじゃないが、一番恐ろしいのは何よりも人間という思考する生き物なのだ。ちょっとした事が発端となって全てを台無しにするのも人間、芽の出かかった可能性を容易く潰してしまうのも人間なのだ。

「で。まだ続けんの? 拷問ごっこ」
「拷問じゃあない、これは尋問です」
「お〜い、ノラぁ! ヒロシくーん!」

 ヒロシは手の中の鍵をくるりと回転させて、既にそれは武器じゃないぞとばかりに手の中で主張してみせた。拳銃を持たなくて良かった、そんなもん持ってたらややこしくてしょうがなかったに違いないのだから。

「あそこのスーパーで色々見繕ってきたよ。……何かドロボーみたいで気が進まなかったけど、食料品とか簡単な薬とか……」
「ドロボーみたい、じゃなくてドロボーそのものだよユウくん」

 可愛い顔と声で結構はっきりと現実を突きつけるのはヤブであった。ユウが苦い顔をさせていると、ノラはその隙を見計らうよう突如ヒロシにしがみついた。

「おらっ! ヒロシちゃんの隙見つけたぁ!」
「!?」

 そう言って何やら肩口にしがみつくノラだったが、慌ててヒロシがそれをふりほどいた。傍目から見れば仲がいいのか悪いのか、それともじゃれているだけなのか――とりあえずそのやり取りを見守っていると、ヒロシはノラを突き飛ばしてから そんなに隙を突かれたのがショックだったのか……半ば茫然とした顔つきでノラを見つめた。

「にひひ。俺も負けず嫌いだからさー、やり返さないと気が済まないみたいで。お互い様だねーぇ」
「……」

 ヒロシは特に何も言い返さず、勝ち誇ったように笑い離れて行くノラをやっぱり放心気味に見送るだけなのであった。二人のやり取りを只眺めているばかりの残る四人であったが、やがてミイが肩を竦めるようにして言葉を押し出した。

「お前らってさ……」

 引きつったような笑いを心持ち浮かべつつ、ミイは続けた。

「何か、俺達とは違うんだな」

 その言葉をどう受け取ったのかは知らないが、ヒロシは少しだけ眉を持ち上げてミイの顔を見た。


 先程の話の延長、というわけではないが人々がほぼ避難したのであろうその街の中、でかでかとまたあの不愉快ヅラが現れていたので一同も決していい気分とは言えないその気持ちを更に叩き落されてしまう。

『安心して下さい! このジークフリード竹垣こそが今暗雲立ち込める世界の救い主、さぁ皆様、この暗闇でわたくしと握手!』
「ちぇ、気に入らねえよなぁ。こーのオッサン」

 石丸が舌打ち交じりに街灯モニターを見上げつつ、実に忌々しげに呟いた。

「……そうですね」

 珍しくヒロシが同調しておいて、連なるようにそのモニターを一瞥したのであった。

『わたくしの元へ、今こそ集う時! 心を一つにしわたくしと共に歩もうじゃないですか! 進むべき道は一つなのです、こんな時代だからこそ助け合い、そして信じあい、未来へと一歩ずつ進むのです――』

 そんな怪しすぎる演説を聴きながら、ひとまず日も暮れて来たので一同は交替で見張りをする事にし、壊れたビルの中で休憩する事にした。階段がものの見事に崩壊していたので緊急時に用いられるのであろう救急梯子を使い、それを回収しておくのも勿論忘れずビルの最上階にまでやってきた。幸いにもゾンビ達は中にはおらず、一同はビルの最上階にまで向かうのだった。

「ゾンビってね、理屈はまだ解明されていませんが積極的に高いところに来ようとはしないんですよね……奴らは何故か地上を好んでウロウロしています。しかしながらこれもまだ立証されていない仮説に過ぎないので、百パーセント信じるのもどうかとは思いますが……。まあ、あいつらに気付かれないうちはこうやって地上より離れた場所で休息を取るのがいいでしょうね。――それもいつまで通用するやら分からない話ですが」

 ため息混じりに言ったヒロシの顔に、何か意味深なものを察知したノラが問いかけた。

「て、言うと、アレかい。ゾンビも知恵をつけて段々と賢くなってくる可能性があるって意味? ま、益々ロメロの世界になってきてるよこれは……」
「――そうなりますね。事実、武器を扱う奴までいるくらいですから……ゆくゆくは知能の高い厄介なゾンビまでが現れてしまう可能性も否めません」

 もはや希望の文字さえ霞んで見える、二人のそんなやり取りが印象的な一日目の夜であった――。

「見ろよ、ノラの奴。寝るって言ったらほんとに寝息立ててあっという間に寝始めた」

 すげぇよな、と石丸が少し笑い調子に丸くなって眠っているノラを指して言う。そんな石丸はようやく念願の煙草にあり付けたらしく、満足げにセブンスターを咥えている。禁断症状が緩和されたのかさっきまではふらつく足取りを進めるのにやっとだったのに今はぺらぺらと饒舌なくらいに喋っている。

 そしてその傍では、ヤブが膝を抱き寄せて少し眠たそうにうつらうつらとし始めた。

「眠たいんでしょうか? 寝てもいいですよ、僕はまだ起きてますから」
「う……うん。少しね」

 ヤブは目をこすってあくびを一つした。
 ユウは辺りを見渡しながら改めて夜を迎えられた事に、心のうちで微かなため息を吐いた。そういえばまだ一日しか経過していないのだ……とにかくまあ、この一日で色んな事がありすぎた。一日でもはや一週間分くらいの経験をした気がするのは只の思い込みなんだろうか。そのくらい身体は疲労しているが、瞼が降りてくる気配があまり感じられない。

「ユウくんも寝てもいいんですよ」

 ヒロシにそう言われたが、ユウは首を横に振った。

「ノラと交替でいいよ。……何か、目が冴えちゃって」
「そうですか」

 石丸はもう一本煙草を振り出してから、それを唇に挟んだ。ヒロシから無理やり奪い取る様な形で借りたライターにて得る事の出来た至福の時に、石丸はしばし浸っているようである。……石丸は昔からそうなのだが、煙草を吸いだすと一切喋らなくなる。その味を楽しんでいるのか、石丸は吸っている間だけはずっと無口なのだ。

「……なら、ちょっと仕事頼んでも?」

 ヒロシがユウに尋ねると、ユウは「もちろん」とそれを快諾する。

「じゃ、そこにあるショットガンに弾を装填してもらいましょうかね」

 ヒロシが顎でしゃくった先に置かれているのは散弾銃、ショットガンとよばれるものだった。当たり前だが銃の事には詳しくないので、ユウはその名称や形状なんかについては分からないままにそれを手に取った。

「う……お、重いねこれ。こんなの撃ったら反動で俺の方が吹っ飛びそうだよ」

 ユウがその重みに面食らったような表情を浮かべた。

「弾はそれ」

 次いでヒロシが視線で指した先に合った紙箱を拾い上げる。

「あ……ねえ、ヒロシくん」
「……?」

 ヒロシが返事する代わりに視線を寄越した。

「もし……答えられる事なら、教えて欲しいんだけど」

 ユウがおずおずと口を開くと、ヒロシは黙って続きを待っている。

「――どうしてネクロノミコンを追うのかなって。その、別にヒロシくんが頑張らなくても、他の人に任せておいて、ヒロシくんは普通の学生として……普通の人生を送る事は駄目だったのかなぁっ〜なんて、ちょっとだけ……思って」

 そこまでを言いユウはひと呼吸する。ヒロシは肩を竦めながら、ちょっとだけ視線を落とした。ユウはそのヒロシの視線に大して何をどう思ったのか、慌てた様子で再度のように口を開くのだった。

「ッあ、べ、別に無理して聞きたいわけじゃないんだよ、その……どうして、ヒロシくんがこんな事しなくちゃいけないのかなぁって……、えと、あの……。も、もしかしたら――死ぬ、かもしれないのに」

 語尾の方で幾分か小声になりつつ、ユウはとても自信なさげに視線を下へと落としてゆくのだった。

「――僕は顔も知らないんですけどね」

 ぽつり、とヒロシが呟いたのでユウは落としていた視線をすいと持ち上げた。

「僕の祖父の、そのまた祖父だか……もはや血も遠すぎて忘れましたが。とにかく、ずっとずっと離れた人なんですけど。あろう事か僕の家系の中にネクロノミコンのその魔力に魅入られた人がいたんですよ」
「え……?」
「まぁ……、幸いにもネクロノミコンと上手く、というのも何だかおかしな言いまわしですが、共存が出来ずに力が暴走してしまったようです」
「暴走?」
「ええ。その方は望んでネクロノミコンを手にしたわけではないです……ネクロノミコンを葬るつもりでいたのに逆に取り憑かれて、おまけに一緒に行った仲間を全て殺害。そして彼自身もまた――」

 先の事はあえて口にしないようにして、ヒロシはそこでフッとため息を吐いた。それから、深々と目を閉じて首を横に振った。

「まぁ、そんな遠い昔の家族の仇なんてって思うかもしれませんけどね。僕だってそう思いましたけど、僕に流れる血がどうもそれを許さないようでして。……伝わってくるんですよ、ここに色々と」

 言いながらヒロシはこめかみあたりをトントンと指でつついた。

「ネクロノミコンから放たれる邪悪な気流がダイレクトにここに流れ込んでくるんです――とにかくこれが不快でね。あまり耳を傾けていると、この頭ごと破壊されそうな程の精神干渉によって僕の方が発狂しかねないんですよ」

 発狂、とはまた何とも物騒な響き――ユウが、少しばかり息を詰まらせるのが分かった。

「……歳を重ねるごとに弱まっては来るらしいけれど、僕としちゃあさっさとこんなものとは別離してしまいたいんですよ。あいつが存在している限りはずっとこうやって僕の脳内に勝手に侵入して来て、そして子孫にもそれが受け継がれて行くわけです。まあ、僕が戦う理由なんてのは結局このように自分の為だけっていう事ですね。……そのついでに世界を救う事になっているというのか」
「でも、ヒロシくん」

 身震いでもしているような調子であったユウだが、おずおずと口を挟んだ。

「ヒロシくんはさ、子どもの時からずっとそうやって……その変な気? みたいのを、受信してきたんでしょ」
「ええ」
「それってさ、すっごい辛かったんじゃないの……」

 その言葉が意外なもののように、ヒロシは少し驚いた様な表情を浮かべて見せてからユウを見つめた。ユウはまた何を勘違いしたのか、慌てて取り繕うような具合に口を開いた。

「あ、あわっ。ごめん、何か全然知らない俺が軽々しく言う事じゃないんだけど、でもさ、俺なんか今まで何の苦労もせずに幸せにここまでやってきてて。でもでも、違う場所ではヒロシくんが小さな頃からずっと一人で戦ってきたんだなって思ったら何か……ううんと……えと……」

 思い通りに上手い言葉が出て来なかったのか、ユウは言葉を切りままならないとばかりにぐしゃぐしゃと髪を掻いた。そんなユウを見つめながら――ヒロシはもはや作業するその手を、すっかり止めてしまっていた。

――……

 心のうちで微かにため息が零れた――甘い、甘いんですよ。貴方。勿論、いつもの彼らしくそんな風に毒吐きながら、ヒロシは目の前で頭を掻き毟るユウをじっと見据えた。

 だが、ヒロシの唇は自分でも気付かないうちに、ほとんど無意識のうち笑みの形を作っていたのであった。ヒロシが笑う時と言ったら建前上のものだったり悪意が含まれていたり、おおよそ善良なものとは程遠いのだが今回の微笑はほとんど自然にこぼれたものではないだろうか。無論、彼は無自覚そのものだろうけれど。

「……僕は貴方が思うほどいい人じゃないですよ」
「そうかな? でも俺の事、何度も助けてくれたし。偶然かもしれないけど俺にとっては命の恩人だもの。……あ、でもここだけの話転校してきた時は、正直とっつきにくそうな奴だなって思った」

 ユウがそう言って屈託の無い笑顔を浮かべるものだから、ヒロシもそれ以上毒を吐く気力を削がれてしまう。

「――まぁ、貴方が納得のいくのでしたら……何とでも好きなように思っていて下さい」
「うん。そうするよ」

 そんな嫌味っぽい切り返し等も意に介さずに、ユウがまた子どもみたいに無垢な笑顔を浮かべるのだった。



はじめの方も初期版にはなかったノラヒロ。
しかしノラよ、こんな振り向きざまに
人様の眼球めがけて鍵刺そうとしてくる
危険人物の何に惚れたんだ。
あの車の鍵って実は武器代わりとして
結構危ないし使えそうだよね……


prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -