▼ 02-2.5分前までは人間だった
まさしくこの世の地獄。甦った生ける死者達で大渋滞するその光景に、ユウは戦慄し息を呑んだ。
「……いますね。数えるのも面倒だ」
ヒロシが忌々しそうに呟くと、コルトガバメントの弾をリロードし始めた。
「だからどこか別の出口探そうって言ったのに……」
「あのねぇ、馬鹿ですか貴方は。こういう状況なんですから、もう少し臨機応変に頭を働かせて下さいよ」
ヒロシが銃口をこめかみにトントンと当てながら嫌味らしく呟いた。ここへ辿り着くまでにももう何度と無く『馬鹿』という単語を吐かれ続けた事か。
「そんな場所、既に我先に逃げようとして人が大勢集まってるに決まっているでしょう。ゾンビっていうのは聴覚でも嗅覚でも生きている人間を感知する能力に関して並外れて高い能力を持ってますから、そこを狙われない筈が無い。で、そんなところを数で襲われたらそれこそ終了ですよ。人がごった返す狭い場所でゾンビに襲われて勝てる自信があるんですか?、貴方?」
「そそ、そこはみんなで協力すれば――」
「そんな状況で全員が全員、冷静でいられるとでも? ゾンビを前にして武器を持たない全くの素人が器用に立ち振るまえると思ったら大間違いですよ。そのままゾンビの格好の餌食になるか誤って同志討ちになるのがオチです」
「うぅ……で、でも」
「おや、まだ口答えする気ですか? だったら今すぐ一人で行動してくださいよ。僕に勝手についてくるって言ったのは貴方なんですからね、僕は別に貴方に協力するつもりなんて一切ないんですから」
看破されてしまったユウはグウの音も出ない、と言った様子で閉口している。
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