▼染井吉野書店




満開の桜が舞い散る公園。
今は一面薄桃色に染まり、春だという事を実感させてくれる。
ベンチに座り、手製の桜紅茶を啜る巫と紬。
巫はコーヒー派だったりするのだが、お茶を淹れる弟が紅茶派なので紅茶を飲んでいる。
紬は和風を着ているにも関わらず、緑茶より紅茶のが好きだという少し変わった奴だ。
特に交わす言葉など無いが、穏やかな雰囲気を二人は楽しんでいる。
インドアな二人が何故わざわざ公園へと出向いて、お茶をしているかと言うとそれは数分前の二人に遡る。



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何時ものように兄弟で本を読む至福の時間。
巫と紬はどんなジャンルでも読むが、好むジャンルはそれぞれある。
巫はシリアスやミステリーを好む傾向にあり、紬はミステリーも読むがほんわかとしたファンタジーや甘酸っぱい恋愛小説を好む。
一応全てを網羅しているので、どんな本でも語る事は出来るが熱の入れようが違ってくる。
特に一度読んだ本は絶対に忘れないという巫は、嫌いなジャンル・・・恋愛物は反応がとても冷たい。
女性の利用も多い、ここ染井吉野書店の要と言える彼が冷たいと評判が下がってしまう。
困る訳ではないが、あまりいい気はしない。
紬が毎日毎日口が酸っぱくなる程言うので、今日も渋々恋愛小説を読んでいる。
原田康子氏著作の“満月”
それが今巫が読んでいる本。
紬がとてもいいと、貸してくれたのだ。
一方の紬は五木寛之氏著作の“奇妙な味の物語”
急に本を畳む乾いた音が響いた。

「兄さん、お花見に行きましょう!」
「は?」

突然本を置き、机を叩く勢いで立ち上がると満面の笑みでそう伝えるのだ。
状況がさっぱり掴めていない巫は突然何を言い出すんだ、と眉をひそめる。
確かに今は桜の時期。
きっと今頃綺麗に咲き散っているのだろう。
最も、インドアな二人には関係の無い事なのだが。

「いいから、行きましょうよ。たまにはいいですよね?」

紬が本を引ったくり、栞を挟むと半ば強制的に椅子から立ち上がらせる。
巫が弟の真意がわからずされるがまま。
こうして二人のお花見が始まったのであった。
そして冒頭へと戻る。



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「全く、急に花見しようとかどうしたんだよ。」
「たまにはいいじゃないですかー。」
「いいけど、どうしてこうなったのか僕は聞いているんだよ?」

ただひたすら桜を見て、桜の紅茶を啜る。
穏やかでいいのだが、彼にはどうも引っかかる事がある。

「んー、赤い桜の森が見たくなったから、ですかね。」

赤い桜の森。
そんなものあるわけないだろう、そう言おうとした時にふと思い出した。
そのタイトルの小説を。
さっき紬が読んでいた“奇妙な味の物語”の中に“赤い桜の森”という短編小説が収録されている。
その話は桜のシーンがとても印象的だ。
だから・・・。

「もしかして・・・いや、絶対“赤い桜の森”に感覚されただろう。」
「はい、当たりです。」

こっちへ向いて、へにゃりと笑った彼にに巫は脱力。
案外彼の弟は我儘で自由人なようだ。
けれども、一面に咲く薄桃を見れただけ僥倖としよう。





赤い桜の森


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