▼染井吉野書店





夏が終わったものの、昼間はまだまだ残暑が厳しく夕方ごろになると半袖では肌寒くなる季節。
これを秋と言ってもいいのかとても微妙だ。
本の手入れをしていた紬はふと外を見る。
太陽の光はまだ黄色。

「まだまだ夏・・・ですか。」

独り言のように呟くが、本を読んでいた兄の耳には届いたようで視線を感じる。
そちらを向きふわりと微笑めば、返ってくるのは少し痛い視線。
気にせず仕事へ戻ろうとすれば、巫が静かに言葉を紡ぎはじめた。

「秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏の、寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて、雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。 日入り果てて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず。」
「懐かしいですねぇ。中学生の頃に国語で暗唱させられました。」

秋は夕暮れが素晴らしい。
そういった事を唄った有名な随筆。
清少納言がそう書き残したように、紅葉も美しいがやはり秋は夕暮れが一番美しいのかもしれない。

「中学生なんて何十年前の話だよ。」
「そーですね〜・・・・どれくらいでしょうか。」
「計算するな。悲しくなる。」

こうやって昔話に花を咲かせるのも、少し侘しい雰囲気を持つ秋ならでは。
年中ゆったりとした空気が流れているこの書店だが、今は何時もとはまた違った色を醸し出していた。
まだ暑いものの、確かに秋は来ていた。



秋麗らか


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