▼染井吉野書店





「例えばの話をしようか。」

そう言葉を並べるのは巫。
紬が言うのであればまだ違和感はないが、非現実な物や“もしも”の塊である本を読むくせに信じない彼が言うので驚いてしまう。
眼鏡を指で持ち上げ、また言葉を紡ぐ。

「例えば、僕たちが双子じゃなかったとしよう。」

同じ顔の弟に対して兄は笑いかける。
悪意のない笑顔をすることなんて滅多にない巫だが、笑えば雰囲気は紬に似る。
普段の行動、服装、仕草などが違うせいで意識されにくいが彼らは双子。
一卵性で瓜二つの双子だ。

「私たちが双子じゃないなんて想像できません。」

何故なら双子という“事実”があるから。
想像なんてできないだろう。
そんな彼に巫は頭が硬いね、と笑う。
巫と紬、どちらが柔軟な思考を持っているかと言うと巫の方だろう。
爆弾発言を落とすのは紬の方だけれども。

「じゃぁ、僕らが家族じゃなかったらどうなっていたと思う?」

また想像が難しいお題。
事実があるから思考は止まりやすい。
ほこりっぽい匂いがする書店の中はしばらくの間、時間が止まった。
気が長い方ではない巫だが何も言わずに待っている。
時間を苦ともせず、彼はゆったりと構えていた。

「私たちが家族じゃなかったとしても、きっとここで出会ってますよ。」

しばらくして紡がれた答え。
ここ、染井吉野書店は彼らの祖父の店であり父の店。
そして本が大好きな二人の店。
もし、二人が家族ではなかったとしてもこの店を通じて、本を通じて出会っただろうと紬は言う。
予期せぬ答えではあったものの、巫は驚いた様子もなく手に持っていた本を閉じた。
クスリと笑い、弟の元へと寄るとそのまま彼を本で小突いた。
反射的に痛いと言う癖がだいたいの人にある。
紬も例外ではなく、痛いと言って手に持っていた数冊の本を落とした。
巫のため息が静かな店内に零れる。

「らしくない事を言うもんじゃないねぇ。」

本を拾いながら巫はそう呟いた。



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