4 美しき城の狂わしき姫
太腿にある光る痣。さっきの夢の内容からするに、彼はきっと…私の事を好いている…?
違う、疑問系じゃない。彼は私の事を好いている、だから私だけを残した。結婚の約束もそうだ、子供の頃にしたもので、彼はそれを覚えていたのかもしれない。
純粋な心を持っていた私は、彼を見た目で判断したりはしなかった。それに比べてお父様やお母様は醜く人間と違う彼らを嫌った。
そして殺し、殺された。
それならば、彼の話との辻褄が合う…。
でも、それならば悪者はどちらになる?
そう問われれば、確実にお父様やお母様になると思う。だって、彼らは本当に心優しかったのだ。
それでも、私にとって大切な家族を殺したことに変わりはない。結局彼は、私のお父様やお母様と同じようなことをしてしまったのだ。
お互いに、独りぼっちになってしまったのだ。
ああ、それなら仕方が無いじゃない。ショックのせいか、いつの間にか私はそう思うようになっていた。
そう、一人で考えているとき、彼が部屋へと入ってきた。
「おはよう、アリス」
「征十郎さん」
もう私はどうしたらいいのか分からない。これから先、どうやって国をまとめていけばいいのだろうか。私達以外誰もいない城で、どうすればいいのだろうか。
「わたしを、たすけ、て…」
気付けばそう言って、涙が溢れていた。どんどん溢れてくる涙は、止まることなく下へと落ちていく。
それを見た彼は、怒るでもなく、驚くでもなく、ただ笑って、僕が君を助けるよ。君を助けられるのは僕だけだ、と言った。
*
「征十郎…さん…」
「なんだい、アリス」
用もないのに名前を呼べば、彼は優しい笑顔で私の方を向いた。そして、そのまま少し見つめ合った。
「ねえ」
「私はこれからどうすればいいの」
「この国を、支えるなんて、私にはまだ」
「アリス」
「……」
それから、抱き締められて、再び涙が溢れた。どうして、どうして、この人はとっても憎いはずなのに。私の家族を殺した人なのに、どうしてこんなにも温かいのだろう。
せめて貴方がもっと残忍で冷酷な人なら、それなら安心して貴方を憎めたのに。
でももう、私には悩んでる暇なんてない。
やるべきことをしなければならない。
*
「せ…い……」
「アリス、まるで昨日までとは別人のようだね」
「そんなことないわ」
「ねえ、美しい城の狂わしいほど美しいお姫様」
「…」
「機嫌を損ねたか、すまないね、続きをしようか」
そう言って私をベッドに押し倒した彼。
私はただ笑って、言った。
「×××××」