3 はじき出される醜い姿
「おはよう、アリス」
「…………」
「そろそろ現実を受け止めたらどうだ」
「…………」
「まあ、その内分かるだろう」
そう言うと、コツンコツンと音を鳴らして、彼は何処かへと消えていった。昨日の出来事がまるで嘘のように綺麗になった城は、いつもの賑やかさはなく寂しかった。
「お父様、お母様、お兄様、お義姉様………」
ぽたぽたと落ちていく涙。その涙はシーツを濡らしていった。
「ないちゃ…だめだ…………私が終わりにしなきゃ……」
涙を拭って、ベッドから降りた。御丁寧に靴まで準備されていた為、その靴を履いて、城の中を歩いた。彼に見つからないように、細心の注意を払って。少し歩いた後に、両親の部屋へと着いた。涙がでそうな気持ちを堪えて、その扉を開けた。
まず、中を見渡して彼がいない事を確認すると、中へと入った。意味はないだろうけど、部屋の鍵を閉めて、中を見渡した。いつもと何も変わらない。ただの部屋。綺麗に片付けられていて、昨日あった事などまるで嘘のようだった。
暫くその場に立って気持ちを落ち着かせた後に、お母様のドレッサーを見た。鏡には綺麗な服を着せられた自分が写っていて嫌だったから、その鏡を閉じた。そして椅子に座り、引き出しを開けた。すると、中に何やら一冊の本が入っていた。
「これは……」
私は静かにその本を開いた。
×××××
この本には、真実が記されている。
私が見た全てだ。
そしてこの本を読めば、君達はおかしくなるかもしれない。
それでも読みたいのなら、次へと進め。
これは全て真実だ。
×××××
×月×日
私は森に来ていた。その時に怪我をして意識を失った。目が覚めるとそこはベッドの上で、驚いた。何が起きたのかと周りを見渡せば、頭にツノの生えた人間がいた。
何と言うことか、森には本当に彼等が生息していたのだ。それから、彼等に暫く世話になった。彼等はとても良心的な一族だ。
×月×日
髪の毛の赤い赤ん坊に会った。眠っていたが、彼は将来立派になるであろう。
どうやら彼はこの一族の中でもかなり高貴な者らしく、周りの人々にもかなり可愛がられていたようだ。
その日は彼の誕生日だったそうで、盛大に宴が開かれた。
「赤い髪の………赤ん坊……まさか………」
コツンコツン
「!!」
あの足音が聞こえて、私は急いでその本を服の中に隠した。そして、息を潜めてその場に隠れた。
足音はどんどん近づいて来て、やがて止まった。バレた……………?暫く静寂だけが残り、私の鼓動は早くなっていく。息を潜めて、その場から動かずにいると、再び足音が響いて安心した。
「っはぁ…………………」
足音が離れていったため、その本を服の中に隠したまま、外へと出た。見つかったら、怒られるかもしれない。急いで地下の部屋へと行き、鍵を開けた。ここの鍵を開けれるのは私達家族だけだ。暗号があり、その暗号を解読できるものはいないからだ。例え、どんな魔法を使ったとしても。
中へと入り、小さな箱の中に本を入れて鍵をかけた。その箱を椅子の下へと置き、地下の部屋から出た。地下の部屋は自動的に鍵がかかる仕掛けになっている為、これで大丈夫だ。上へと上がり、自分の部屋へと戻ろうとしたとき、後ろからその手を引かれた。
「どこへ行っていたんだい」
「少し散歩をしていただけ………」
「へぇ、そうか」
顔は見えない、でも、響く声は冷たい。何をされるのか分からずに、体を震わせていると、彼は自分の方へと私を向かせた。
「ねえ、アリス」
「………………なに…」
「知っているかい」
「何を…………」
目を合わせぬまま下を向いていると、突然上を向かされた。その行為にまた身を震わせていれば、彼は私のドレスを思い切りたくしあげた。
「!?」
「これだよ、これ」
そして彼が手から光を発し、言葉を唱えると、私の太腿に奇妙な痣が浮き上がった。
「な…にこれ…」
「ほら、同じだろう」
そして彼も掌を私へと見せて、そう言ったのだった。彼の掌にある痣と、私の太腿にある痣は、全く同じ物だった。
「!!」
「魔法で隠していたんだろうね」
「醜い姿が、はじき出されてしまったね」
私はショックのあまり、再び気絶した。それからの記憶はない。只覚えているのは、薄れゆく意識の向こうで彼が怪しげに笑っていたことだけ。
*
「アリス、アリス!」
「お母様?」
「ああ、よかったわ………これはどうしたの?!」
「これ?」
「この醜い痣は………あの一族だわ!どこでやられたの!?アリス!」
「何もされてないよ?」
「されたんでしょう!!!どうしたの!?いいなさい!」
「なんにも、悪い事されてないよ。前に、森の奥で会った男の子に怪我を治してもらったの。それから何回も会って、結婚の約束をしたの。そしたら、これが出来たの」
「なんてことを…………いい、アリス。その男の子の事は忘れなさい。そして、その痣も」
「どうして?」
「それは貴方には必要の無いもの。今すぐにでも忘れるのよ、おやすみなさい、アリス」
***
再び目が覚めるとそこは、見慣れた天井だった。
「さっきの夢は一体…」
痛む頭を押さえながらも、ベッドから起き上がる。すると太腿に激痛が走り、その場にうずくまった。ドレスの裾を上げてみれば、そこには光る痣が。なるほど、この痣のことか………と私は冷静に考えた。
醜いその痣は、まるで彼の所有印のようだった。