有罪判決決定
「3.14159265358979323846264338」
「黒ちん、千尋ちんが壊れた」
「千尋さん………」
「………あ、悪魔がくるぅうぅうう」
しゅばっと効果音がしそうな勢いで紫原くんの後ろに隠れたのは、白澤千尋さん。とても温厚で優しい人なのですが、彼女にはどうやら一人だけ苦手な人物がいるようです。
「おはよう、テツヤ、敦」
「赤司くん、おはようございます」
「赤ちんおはよー」
「ひぃ…………」
「ああ、千尋も、おはよう」
にっこり。悪魔のような笑顔で微笑む赤司くん。そうです、彼こそが千尋さんの苦手な人なんです。まあ、なんで苦手なのかは、大体見ていればわかると思います。
*
「ええと…これで終わりかな…」
「千尋さん、遅くまでご苦労様です」
「いえいえ、黒子くんこそお疲れ様」
「ああ、そういえば千尋さん、赤司くんが呼んでいましたよ?」
「え、ほんと?ありがとう、行ってくるね」
ばいばい、と手を振る千尋さんに手を振り返すと千尋さんは笑顔で消えていった。大丈夫でしょうか…。と心配にはなったが、まあ大丈夫だろうと思い、その日は家に帰った。次の日学校に来ると、真っ青な顔をして冷や汗をかく千尋さんが見えた。僕はそのまま側まで駆け寄り、大丈夫ですか、と声を掛けた。
「く、黒子くん…おはよう…」
笑っているつもりなのだろうか。見事に引きつった笑顔は僕の背後にいる人物に向けられているのだと気付いた。
「おはよう、千尋」
微笑みそう言った彼に、赤司くんおはよう…………と小さな声で言った千尋さんは顔を真っ青にして下を向いていた。こっそり赤司くんに耳打ちをして、どうしたんですか、と聞いてみた。
「どうもしないが?」
「千尋さん、体調でも悪いんでしょうか」
「ああ、そうだな、確かに顔が青い…………千尋、大丈夫かい」
「だ、大丈夫です…………」
「そうか?僕が保健室まで連れ」
「本当に大丈夫ですから!!!!!」
顔を真っ青にしてそう言った千尋さん。普段大人しめの千尋さんが割と大きな声でいったから、僕も少し驚いた。それをみて赤司くんは舌打ちしてるし…。一体二人の間に何があったんでしょうか。千尋さんのためにも?僕はそれを調べることにした。
*
「ああ、黒子くんどうしよう!!赤司くんが来ちゃうよどうしよう!!」
「まだ見えてすらいないのに…千尋さんの赤司くんセンサーもすごいですよね」
「赤司くん警報だよ!!」
「あ、本当に来ましたよ」
わぁああ、と僕の後ろに隠れる千尋さん。いやいや、部活が一緒なんだから隠れたって意味ないでしょう…。しかし、何故にここまで千尋さんは赤司くんを嫌がるんでしょうか。この前までは全然普通に接していたのに…。ああ、そういえば、この前赤司くんが千尋さんのことを呼んだことがあったな。あの時か…。どんな話をしたんでしょうか、赤司くんは。
「赤司くん」
「なんだい、テツヤ」
「千尋さんに随分怖がられているようですが、一体何したんですか?この前までは憧れって言われていたのに」
「ああ…………」
?
赤司くんは、少し考えたあとに怪しげな笑みを浮かべて言った。
「告白、したんだよ」
「は、はい?千尋さんにですか?それにしてもあんなに苦手視されるんでしょうか?」
「それは僕にも分からない」
「で、何て言ったんですか?」
「千尋、ずっと前から気になっていたよ」
ここまではまだ普通だな…………。
「はい……」
「それで、千尋の好きな色も、好きな食べ物も身長体重エトセトラ…………千尋のその癖も、声も、全部愛せるのは僕だけだ、高校を卒業したら結婚しよう、愛してるよ。」
「ああぁあああああかしくん!!!」
「ん?なんだ?何処がおかしかったんだ?」
あとの発言全てがですよ!と言いたいところだが、赤司くんも少し落ち込んでいる、らしい。そしたら真っ青な顔して、すいません!と言って去っていったんだよ…と。まあ、それが普通の反応です、赤司くん。理由も分かったことだし、赤司くんも可哀想なので誤解を解くために協力してあげることにします。
とは言ったものの………。
「千尋さん、誤解なんです」
「だって髪の毛が何cm伸びただとか、スリーサイズとか!気持ち悪いでしょ…!!悪魔だよあくまぁ!!」
「それも赤司くんなりの愛の示し…」
「黒子くんも赤司くんの味方するのー!?」
黒子くんのばかぁああ!!!!!と、泣きながら叫んで走り去ってしまった。赤司くん、これはやばいですよ………。はぁ、と深い溜息をついて、頭を抱えた。
「千尋は何と言っていたんだ?」
「気持ち悪い悪魔と言ってましたよ」
「………僕は死んだ方がいいのだろうか……」
「早まらないでください赤司くん!!まだ、まだ、誤解を解く方法は他にもあります!」
そして、次の日、桃井さんに協力してもらい、誤解を解いてもらおう作戦が決行されました。
「千尋」
「あ……あく……赤司くん………何ですか」
「すまなかった」
「は、はい…………?」
「いや、この前のは言い方が悪かったんだ…。千尋の事が本当に好きだからつい探究心がわいてしまったんだ。そしてあんなことを言ってしまって、本当に申し訳ないと思っている」
「赤司くん………………」
あ、いい感じじゃないですか。と桃井さんと覗きながら話していた。しかし、そう上手くいくわけもなく……。
「それに、千尋を他の男に渡すくらいなら殺してしまったほうがマシだからな………僕とつきあ」
「やっぱり無理ですごめんなさい!!!!!」
「千尋…!」
途中まではよかったのに!千尋さんも心做しか嬉しそうにしていたのに!もうこれ以上何をどうしたらいいのかわかりません。千尋さんの走っていった先を見つめながら真顔で立つ赤司くんと、必死に慰めようとする桃井さんと、深く溜息をつく僕。
ああ、赤司くんの誤解はいつになったら解けるんでしょうか。
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