01
新八に誘われた、というよりテンションのおかしな彼に無理矢理連れて来られたのは女子格闘技の大会だった。赤ちゃんには煩いと思うので、とあらかじめ雪路はお登勢に預けさせられた。
リングの上では元主婦春菜VSアイドルお通が戦っている。お通は新八の心酔するアイドルで彼女関連の依頼を受けたこともあるが、いつ路線変更したのだろう。

「お通ちゃァァァん、いけェェェェェ!!」
「いやいや、いけーじゃねーよ。止まった方がいいよ彼女……変な方向にいっちゃってるよ」
「お通ちゃんは歌って闘うアイドルに転向したんです!」
「何だソレ。アイドルって売れなくなったら脱ぐんじゃねーの?」
「何その偏見!!やめてくれます!?お通ちゃんをそんないかがわしい目で見ないで下さい!」
「誰があんな小娘いかがわしい目で見るか。お前の好きなもんが万人受けすると思っちゃいけねーよ。世の中にはマニアックな方を好む奴もいてだな」
「誰もアンタの性癖聞いてねーよ!知りたくなかったよ」
「別に俺がマニアック派だとは言ってねーだろ。俺はマイナー派だ」

ちょっとマニアックとマイナーの境界が怪しいが、自分はマイナー派だと信じている。
万事屋で平々凡々メジャー派は新八だけだ。神楽も渋いのが好みだし、マイナー派だろう。

「そういや、神楽の姿が見えない……」
「えー夢とはいかなるものか。持っていても辛いし、無くても悲しい。しかしそんな茨の道でさえ、己の拳で切り開こうとするお前の姿……感動したぞォォ!!」
「おおーっとリング上に乱入者が!何者だァァ!?このチャイナ娘どこの団体だァァ!?」
「えー私の名はアントニオ神楽……ゆえあってお通の助太刀をするアル。かかって来いコノヤロー!ダーッ!」

リングのど真ん中に見覚えのあるチャイナ娘がいた。頭が痛くなってリングに背を向ける。

「……ヤバイよ。俺しらない。俺しらないよ」
「僕もしらないよ。アンタのしつけが悪いからあんなんなるんでしょーが」
「何言ってんの?子供の性格は三歳までに決まるらしーよ」
「……雪路くんもあんな感じに育ったらどうします?」
「やめて。俺のHPもうゼロだから。前が霞んで見えないから」

少し会場を抜けよう。そうすればきっとすべてが終わっている。

「……ん?」

観客の一人に見覚えがある。向こうも気付いたようで目が合った。

「あらら、沖田くんじゃないの」

神楽も元主婦春菜を倒したようなので、どうにか連れ戻し沖田と会場を出る。

「いやー奇遇ですねィ。今日はオフでやることもねーし、大好きな格闘技を見に来てたんでさァ。しかし旦那方も格闘技がお好きだったとは……」

アイドルオタクに連れて来られただけで、別に格闘技は好きじゃない。が、それは親衛隊の格好をした新八を見ればわかるのでわざとだろう。

「俺ァとくに女子格闘技が好きでしてねィ。女どもがみにくい表情でつかみ合ってるトコなんて爆笑もんでさァ」
「なんちゅーサディスティックな楽しみ方してんの!?」
「なるほど。そーゆー楽しみ方もあったか……」
「アンタも感心してんじゃねーよ!!」

常々女子格闘技の何が面白いのかと思っていたのだ。皆そんな楽しみ方をしてたのか。なるほどマニアックだ。

「一生懸命やってる人を笑うなんて最低アル。勝負の邪魔するよーな奴は格闘技を見る資格ないネ」
「明らかに試合の邪魔してた奴が言うんじゃねーよ」

神楽を連れ戻す際、どれだけ恥ずかしかったことか。まったく気にしないこのチャイナ娘はわかっていない。

「それより旦那方。暇ならちょいとつき合いませんか?もっと面白ェ見せ物が見れるトコがあるんですがねィ」
「面白い見せ物?」
「まァ、付いてくらァわかりまさァ」

面白い見せ物というのに興味を引かれ沖田の誘いに乗ると、会場を離れ段々危ない空気の漂う通りに入って行く。

「オイオイ、どこだよココ?一応コイツら子供なんだけど」
「真っ当な人間の歩いていい場所じゃねェってのは気付いてるんですねィ、旦那。ココは裏世界の住人たちの社交場でさァ」

子供の教育について自信をなくしているのに、こんな所に連れて来ないで欲しい。
新八に神楽を離さないよう言い含める。

「ここでは表の連中は決して目にすることができねェ、面白ェ見せ物が行われてんでさァ」

辿り着いた階段を上った先では、大勢の天人が中央の空間を囲んでいた。中央では侍と鬼面の男が向かい合っている。

「こいつァ……地下闘技場?」
「煉獄関……ここで行われているのは、正真正銘の殺し合いでさァ」

勝負は一撃でついた。鬼面の男が操る金棒に半身を潰され、侍は血を溢れさせ倒れる。

「勝者鬼道丸!!」
「こんな事が……」

殺し合いなど見たことのない新八は固まっている。
銀時は観客の様子を見て、またこういった催しにおいての常識からあることに気付く。

「賭け試合か……」
「こんな時代だ。侍は稼ぎ口を探すのも容易じゃねェ。命知らずの浪人どもが金欲しさに斬り合いを演じるわけでさァ。真剣での斬り合いなんざそう拝めるもんじゃねェ。そこに賭けまで絡むときちゃあ、そりゃみんな飛びつきますぜ」
「趣味のいい見せ物だな、オイ」

殺し合いなど久しぶりに見た。見せ物としての殺し合いは初めてだが。これを見せた沖田の目的は何だろう。沖田に楽しんでいる様子はないし、嫌がらせの類いではないはずだ。

「胸クソ悪いモン見せやがって、寝れなくなったらどーするつもりだコノヤロー!」
「明らかに違法じゃないですか。沖田さん、アンタそれでも役人ですか?」
「役人だからこそ手が出せねェ。ここで動く金は莫大だ。残念ながら人間の欲ってのは権力の大きさに比例するもんでさァ」
「なるほど。この規模と真選組が手を出せねェってことは、幕府か」

裏世界で地球人はここまで大きな組織を作り幅を効かすことは出来ないだろう。天人の組織に淘汰されるし、警察機関は容赦なく彼らを捕縛する。客層から見ても、ここを経営しているのは天人だ。
真選組は対テロ組織であり、地球人の捕縛権は大きい。しかし天人を捕らえるのは許されていない。幕府の上層部は天人に牛耳られており、地球人には厳しいが天人には優しい。真選組がこの件に手を出せばお咎めなしとはいかないはずだ。

「ヘタに動けば真選組も潰されかねないんでね。これだから組織ってのは面倒でいけねェ。自由なアンタがうらやましーや」

銀時は別にどこの派閥にも所属しない自由な人間というわけではない。ただそういう好きに動ける役割を任されていて、本人も気楽だからとその立場を好んでいるだけだ。完璧な自由というのは逆に不自由だからあまり選びたくはない。
沖田は銀時は自由な立場だと思っていて、頼みたいことがあるらしい。ここまで知れば内容も大体わかる。

「……言っとくがな。俺ァてめーらのために働くなんざ御免だぜ」
「おかしーな。アンタは俺と同種だと思ってやしたぜ。こういうモンは虫唾が走るほど嫌いなタチだと……」

沖田には同類感知センサーがついていたようだ。
散々天人も人間も殺してきたので偉そうなことは言えないが、確かに銀時もこういうものは好かない。
人間を食い物にする姿が常道として根付いているし、殺し合いの観覧を娯楽にしているのも気に入らない。人の殺し合いを笑って楽しめるというのは、どういう感覚なのだろう。自分の手を汚したことのない者が、他人の手が汚れていくのを嘲笑っているのか。血で手を汚したことのある者が、他人の手が汚れていくのを蔑んでいるのか。
気に入る部分を見つける方が難しい。純粋なただの格闘技や武道なら受け入れられるのに。

「アレを見て下せェ。煉獄関最強の闘士鬼道丸……今まで何人もの挑戦者をあの金棒で潰してきた。無敵の帝王でさァ」

沖田が示したのは先程の勝者、鬼道丸。

「まずは奴をさぐりァ、何か出てくるかもしれませんぜ」
「オイ」
「心配いりませんよ。こいつァ俺の個人的な頼みで、真選組は関わっちゃいねー。ここの所在は俺しか知らねーんでさァ」

誰も沖田の手伝いをするとは言っていないのだが、沖田の中ではすでに手伝いが決定しているらしい。

「だからどーか、このことは近藤さんや土方さんには内密に……」





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