02
「銀さん、やっちゃったもんは仕方ないよ。認知しよう。そして、奥さんとこの人両方にケジメつけよう」
「結婚はホレるよりなれアルヨ」
「おめーらまで何言ってんの!雪路の前で教育に悪いこと言わないでくれる!?」

新八は真面目に言ってるようだが、神楽は明らかにからかって来ている。
赤子だからと言って聞こえていないわけではない。何を覚えているかわからないのだから、危ない会話はやめて欲しい。前世の記憶だって残るのだ。きっと赤子の記憶も余裕で残る。

「冗談じゃねーよ。何あたかも既成事実がありましたな話してんだ。お前空から降ってきて朝までグースカ寝てただけだろーが」
「とぼけた顔して……身体は知ってるくせにさァ」
「俺が知ってるのはてめーが落ちてきた時の痛みだけだよ!それからソレ、銀さんじゃねーぞ!」

忍者女は定春に話しかけていた。百歩譲って目があまり見えないのだとしよう。しかし触れば毛がふさふさしてるのだから、人間とは違うとわかるだろう。まさか頭撫でてるつもりなのか。

「あーやっぱり眼鏡がないとダメだわ。――ハイもしもし」
「もしもーし。大丈夫ですか頭?」

電話を取り出したつもりのようだが、手にはスリッパを持っていた。本当に大丈夫なのかこの女。

「もしもしさっちゃんですけど。……アナタは」

声に不穏なものが混じり、微かな殺気が漂った。この女、さっちゃんと言うらしいが訳有りのようだ。

「……新八ーィ。仕方ねーからとりあえず家まで送って来るわ。雪路になんかあったら、ババアに頼むか太一に連絡して面倒見てもらえ」
「わかりました。雪路くんに顔向け出来ないようなことはしないで下さいね」
「送り狼ってか?するかァァ!!」

何故新八からの信用がこんなにないのか。
出掛ける支度をし、電話の終わったさっちゃんに声を掛ける。

「オイ、家まで送ってやるよ」
「……そう。じゃあ行きましょう」
「さっちゃんさん!待って待って、コレ眼鏡ありましたよ!」

さっちゃんは新八から投げられた眼鏡を受け取り、銀時を引きずるように万事屋を出た。
銀時はさっちゃんに貸し出された鉤爪を使いビルの壁を登る。

「……まずはお父さんに会ってもらうから」
「娘さん朝帰りだもんな。説明して謝らねーとか。結婚の挨拶とかじゃねーよな?ねーもんな?うん。けどなんでこんなトコ通っていかなきゃならねーの?」
「私箱入り娘だから。朝帰りなんてしたら殺されるの」
「いや、確かに立派な箱だけどよ。え?何お父さん恐い人なの?一体どんな人なの」
「体中毛だらけで出っ歯の悪徳高利貸しよ」

頂上まであと少しといった所か。ビルの上にある屋敷の塀に、誰か立っているのが見える。

「なぁ、アレ誰?」
「……お手伝いの中村さんよ。私の帰りが遅いから見廻っているんだわ」
「やべ、中村さん気付いたぞ」

さっちゃんはビルを登る速さを上げ、中村さんを蹴り上げた。

「なっ、何だアレ!?」
「始末屋だ!始末屋が乗り込んできたぞォォォ!」
「チッ」
「中村さァァん!!お前やり過ぎだろ。中村さんだって仕事で仕方なくやってたんだぞ」

中村さんは塀の上で倒れた。
銀時は何とか追い付き、塀に乗ると鉤爪を取り外す。

「オイオイ、何かいっぱい来たぞ。今度は何よ?」
「中村B、中村C、中村Dよ」
「中村ばっかりじゃねーか!」
「始まったわお父さんの婿試し……私のために頑張ってきてね」
「婿にはなんねーっつってんだろ!うおわァァァ!」

さっちゃんに体当たりされ、銀時は塀から落ちる。中村ズのど真ん中で、このままでは中村Bの刀に刺さってしまう。体を捻り木刀で刀を払いのけ着地した。

「えーと、お嬢さんを連れ帰るのが遅くなりスミマセン。でも俺とくんずほぐれずしてたわけじゃなくて、落ちてたお嬢さんを拾って届けに来ただけだから。俺とお嬢さんは清すぎる関係だからねマジで」
「始末屋と一緒にいたんだ、仲間に違いねェ!」
「囮かもしれねーが怪しい奴だ、引っ捕らえろ!」

中村ズはノリが悪い。そんなんじゃ嫁探しは難航するぞ。
そこまでの腕前はなく、一撃ずつ入れれば中村ズは倒れた。生け贄にして下さったさっちゃんを探すため庭を歩く。屋敷の内より外が騒がしいので庭のどこかにはいると思うのだが、いかんせん庭は広い。見渡せる場所を、と屋根に登る。さっちゃんに斬りかかる……多分中村Eと中村Fが見えたので、瓦を剥いで投げつけた。

「なっ……何奴じゃ!?」
「パララ〜パラパパパ、パリラリラ〜」

中村ズによるとさっちゃんは始末屋をしているらしいので、BGMを口ずさみ姿を現す。

「必殺始末人、子守りの銀サン見参」
「銀さん!」
「お父上ェェ!!娘さんを帰すのが遅くなり……スミマセンでしたァァ!!」
「ぐぶェェ!!」

鼠型天人なお父さんを、飛び降り頭突きで地面に沈める。ここは娘さんを僕に下さい的なシチュエーションなのはわかるが、誰が乗るものか。
着地のため膝をついた体勢から起き上がると、たらりと眉間を何かが流れた。何だか凄く頭も痛い。飛び降り頭突きは今までもしたことがあるが半端なく痛い。今までと何が違うのか。

「……ああ、あの頃は鉢金してたっけ」

鉢金というクッションは、偉大だった。銀時は起き上がれず、そのまま倒れた。

「銀さん?ちょっと銀さーん!!」





―――――――――――

気が付いた時にはさっちゃんに介抱されていた。額の血を拭われ、ガーゼを当てられる。

「ごめんなさい銀さん。銀さんも知っての通り、私たちホントに何もなかったの。なのにこんな利用するようなことを。……でも、アナタ気付いてて利用されたわね?」
「……オイ何やってんの?そんなとこケガしてねーんだよ。オイ、聞いてる?」

手当てしてくれるのはいいが、関係のない頬にまでガーゼを貼らないでもらいたい。

「ああ、もうイイ触んな。何か納豆くさい。こんな傷の手当てもできねーんじゃ嫁の貰い手もねーぞ」

さっちゃんの手を押し退け立ち上がる。

「じゃあな。今度助けてほしいときは、まどろっこしいことしねーで万事屋に来い」

箱入り娘も送り届けたことだし、帰って今日の仕事でもするとしよう。

「……ププ。男ってバカな生き物ね」

何だか面倒なフラグを立ててしまったことに、銀時は気付かなかった。




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