02
結局、鬼道丸を探ってみることにした。真選組という組織ではなく沖田個人の頼みだったから。元攘夷志士の銀時は別に真選組を目の敵にしていないが、笑顔で受け入れ寄り添うほど好意を抱いているわけでもない。「ふーん対テロ組織?へェあっそー」程度の認識だ。乗ってみる気になった理由はもう一つある。沖田という男は人に頼んで報告を待つような人間ではないだろう。必ず自分も動く。もし危ない状況になってそれを自分が後で知ったなら寝覚めが悪いからだ。
鬼道丸は地下闘技場を出ると駕籠に乗ったので、銀時達も駕籠で後を追う。駕籠に乗るということは江戸の外れに向かうのだろう。田舎の方は道が舗装されていないので、車は走れない。

「あの人も意外に真面目なトコあるんスね。不正が許せないなんて。ああ見えて直参ですから、報酬も期待できるかも……」

ただ単に不正が許せないというわけじゃない。絶対ない。真選組で一番不正していそうな沖田を買い被り過ぎだ。銀時と同じく、自身が人殺しだからこそ許せない類いのものだっただけだ。

「私アイツ嫌いヨ。しかも殺し屋絡みの仕事なんて、あまりのらないアル」

殺し屋絡みというと、さっちゃんも確か始末屋で、桂や坂本も人殺しで、銀時の周りには人殺しが湧いているがそれはいいのだろうか。ただ沖田が気に入らないだけだろう。

「のらねーならこの仕事おりた方が身のタメだぜ。そーゆー中途半端な心構えだと思わぬケガすんだよ」
「銀さんがいくなら僕たちもいきますよ」

ここでおりると言うような新八と神楽ではなかった。
道は舗装されたものから砂利道に入り、風景も高いビルはなく田んぼや屋根の低い建物などが増えてきた頃、鬼道丸の乗る駕籠が止まった。

「あっ!止まりましたよ」
「よし、後を追うか。あんま距離詰めんなよ」

鬼道丸を追っていくと道から外れ、古びた廃寺についた。中から悲鳴のような声が聞こえるが、あまり切羽詰まったようには聞こえない。しかし煉獄関で最強の鬼道丸が住むと思われる場所だ。用心した方がいいだろう。

「……お前らはここで待ってろ」
「銀さん!!」

新八と神楽を近くの繁みに残し、銀時は一人廃寺に近付く。縁側に膝をつき、襖の一つに手を掛け静かに引く。見えた部屋の光景は走り回ったりチャンバラをしたり、各々好きに遊ぶ子供達だ。

「さーて、どーゆうことかなー……」

いくつか可能性を思案する。警戒が薄れていたらしい。敵意を感じなかったのもあるが、後方の注意を怠っていた。

「どろぼォォォ!!」
「アッーーーーーー!!」

尻に痛みが走ったというか、衝撃しか感じなくて痛みと認識出来なかった。振り返って見ると、男が銀時にカンチョーしていた。これは絶対指が入っている。この男、カンチョーのプロか。

「てめ、痔になったらどうしてくれんだ……!」

異物感が強くて前に倒れ込むと指が抜けた。尻を突き出した間抜けな体勢をしていると、様子を見ていた新八と神楽が殴り込んできた。とりあえず二人を止め、怪しい者ではないと主張して中に入れてもらう。神楽には子供達の子守りを頼んだ。

「申し訳ない。これはすまぬことを致した。あまりにも怪しげなケツだったのでついグッサリと……」
「バカヤロー。なんでそこでカンチョーをセレクトすんだよ。人間にある穴は全て急所だっつの」
「だがそちらにも落ち度があろう。あんな所で人の家をのぞきこんでいては……」

そこを言われるとこちらも引け目を感じるが、やっぱりいきなりカンチョーは酷いと思う。ちなみに銀時が彼の立場ならドロップキックくらいはお見舞いする。どちらが酷いかは受け身に回らないとわからない。

「スイマセン、ちょっと探し人が……」
「探し人?」
「ええ。和尚さん、この辺りで恐ろしい鬼の面をかぶった男を見ませんでしたか?」
「鬼?これはまた面妖な。ではあなた方は、さしずめ鬼を退治しに来た桃太郎というわけですかな」
「三下の鬼なんざ興味ねーよ。狙いは大将首。立派な宝でももってるなら別だがな」
「宝ですか……しいて言うならあの子たちでしょうか」

いつの間にかと言うべきか、気付けばと言うべきか、男は素早く鬼の面を被っていた。面は鬼道丸のものと同じだ。

「……おおう。てめーどーゆうつもりだ?」
「あまり驚かれませんね。アナタ方こそ、どーゆーつもりですか?闘技場から私をつけてきたでしょう」
「え!?え!?ホントに……じゃ、和尚さんが!?」

やはりバレていたか。あのお粗末な尾行でバレないわけがない。人通りすら少ない道を、ずっと駕籠で追い掛けていたのだから。新八と神楽がついて来た時点で、隠密行動は諦めている。

「私が煉獄関の闘士鬼道丸こと……道信と申します」

鬼道丸の正体や沢山の子供達を見ると、訳ありらしいとわかる。どういうつもりで、銀時達に正体をバラしたのか。

「オイオイいいのかよ。どこの馬の骨ともしれん奴に茶なんか出して……鬼退治に来た桃太郎かもしれねーぜ」
「あなたもいいのですか?血生臭い鬼と茶なんぞ飲んで」
「こんなたくさんの子供達に囲まれてる奴が鬼だなんて思えねーよ。一体この子達は?」
「みんな私の子供たちですよ」
「あらま〜若い頃随分と遊んだのね〜」
「いえ、そういう事では……みんな捨て子だったのです」
「孤児……アンタまさかこいつらを養うためにあんなマネを……」

孤児というのは、誰にも目を掛けられなければそのほとんどが死んでしまう。ここにいる子供達は道信に拾われなければ、今頃死んでいたのかもしれない。道信の膝上にいる赤子など、とうにない命だっただろう。

「私がそんな立派な人間に見えますか?この血にまみれた私が……」
「……アンタ一体」
「今も昔も変わらず、私は人斬りの鬼です。昔から腕っぷしだけが取り柄で、気付けば人斬りなんて呼ばれる輩になっていました。やがて獄につながれ首が飛ぶのを待つだけの身となっていましたが、私の腕に目を付けた連中に買われ獄から出されました。それが奴らでした。
……あなた方は煉獄関を潰すおつもりのようだ悪いことは言わない、やめておきなさい。幕府をも動かす連中だ。関わらぬのが身のため」
「鬼の餌食になるってか?それはそれで面白そうだ……」
「宝に触れぬ限り、鬼は手を出しませんよ。あの子達を護るためなら何でもやりますがね」

なるほど、鬼道丸がどういった人物かわかった。それにどうして銀時達に正体をバラしたかも。警告のつもりもあっただろうが、ただ話を聞いて欲しかったのではないか。人は迷っている時、誰かに話を聞いて欲しいものだ。

「ははっ。鬼がそんなこと言うかよ……アンタ、もう立派な人の親だ」

道信の膝上にいた赤子が、ハイハイで銀時の膝までやってきた。ハイハイが出来るということは、雪路や佳月より少し年は上か。
抱き上げてあやす。その姿は初めて佳月を抱いた時より堂に入っている。

「汚い金で子を育てて、立派な親と言えますか……」
「でも今は悔やんでいるんだろう?」

銀時からすればどんな金でも金は金だと思う。金の価値自体は不変だ。汚い金がどうこう言っていたら、高杉に育てられてる佳月はどうなるのか。現在の高杉は真っ当な金より薄汚れた金の方が多いように思う。……といったことを言っても、道信は納得しないだろう。道信はそれを間違っていると思ってるのだから。

「……最初に子供を拾ったことだって、慈悲だとかそういう美しい心からではなかった。心にもたげた自分の罪悪感を少しでもぬぐいたかっただけなんだ」
「そんなもんだけでやっていけるほど、子を育てるってのはヤワじゃねーよ。なァ?坊……」

罪悪感を抱いた時点で一歩違う道を歩み出したのだし、その心だけで育て続けられるほど子供というのは小さな存在ではない。育てるには、確かな愛情がいるものだ。
道信は俯いた。

「先生コレ!どう似合う?ねェきいてる?先生?先生どうしたの!?」

子供の一人が新八の眼鏡を掛けて走ってきた。地味な眼鏡に関わらず、新八が掛けるより存在を主張しているのは何故だ。

「オイお前!先生に何言った!いじめたら許さねーぞ」
「そいつァすまなかった」

道信を先生と呼び、眉を釣り上げ銀時を怒る姿が眩しい。子供達は道信を先生と呼んでいるのか。

「こいつァ詫びだ。何かあったらウチに来い……サービスするぜ」

抱いていた赤子を子供に渡し、名刺を額に押し付ける。
子供達と遊んでいた神楽と、遊ばれていた新八に声を掛け来た道を戻る。

「……変な奴ら。そーいやウチに客が来るのって初めてだね先生」
「……そうだな。最初で最後の客人だ」





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