01
意識の端に何かが引っ掛かる。その正体を探る間もなくガシャンと頭上で音がし、咄嗟に雪路に覆い被さった。

「うぐぁっ」

四つん這いの銀時に大きなものが落ちてきて、続いて破片のようなものまで降ってくる。寝起きにこれはキツい。どうにか腕を突っ張り、落下物がなくなったところで体を起こした。背中に乗っていた屋根の破片やら人間やらが畳に落ちる。

「は?人間!?親方、空から女の子が……って年じゃねーなコイツ。オイ、起きろー」

天井から降ってきた女をひっくり返し顔を見ると、女の子というより女性と言った方がいい年齢のように見える。
頬を軽く叩いて起床を促すが、まったく反応がない。怪我をしている様子もなく、呼吸も規則正しい。ただ寝てるだけのようだ。

「ええー……なんなの、こんな夜更けに。めっちゃ迷惑なんですけどォォ」

とりあえず、忍者っぽい服装をした女については放置する。いつでも動けるよう仕事着に着替えると、雪路を布団ごと抱いて応接間に移動する。ソファに座り木刀を横に立て掛け、膝に布団にくるんだ雪路を乗せて仮眠することにした。

「ふにあぅあぁ〜」
「ん……起きたのか雪路」

雪路の機嫌の悪そうな声で目を開く。泣く一歩手前で、これはおしめか。
応接間には朝日が差し込んでいて、時計は四時間ほど経っていた。
欠伸をして起き上がり、雪路の世話をし、自身の身支度をする。和室を覗くと女はまだ寝ていて、足先でつついても起きない。定春に雪路の子守りを任せ、朝食の準備をすることにした。

「おはよーございます」
「おう、はよー。神楽起こしてくれや」
「わかりました。神楽ちゃーん」

粗方の料理が出来た頃、新八が出勤してきた。ちょうどいいので神楽を起こしてもらう。

「あれ?和室微妙に開いてる……、!?」

襖がホラーなら人の目が覗き込んで来そうな、薄気味悪い程度に開いている。新八は襖を閉じようと手を掛け――中に人がいるのがチラリと見えて固まる。怖いもの見たさで隙間を広げてしまい、後悔して静かに襖を閉じた。

「何やってるか新八」
「来るなァァァ!!」

新八に起こされた神楽は寝ぼけ眼を擦り、挙動不審な新八を見る。銀時が朝食の準備をしていると知っているので、和室には誰もいないはずだ。なのに新八のこの反応はなんなのか。

「どうしたアル、何かいるのか。まさか、雪路の母ちゃんか!?」
「やめろォォ!!あっちにはうす汚れた世界しか広がってねーぞ!もし雪路くんのお母さんじゃなかったらどーすんだ!」

もしという考えが浮かぶほど、何故か新八は性に関して銀時を信用していない。
新八の静止で神楽が止まるわけはなく。襖を開けた先には、布団の上で眠る忍者姿の藤色髪の女性がいた。

「お前ら何やってんの?」
「銀ちゃん銀ちゃん!あの人雪路の母ちゃんアルか!?」
「は?」

お盆に料理を乗せ運んできた銀時は神楽のテンションについていけない。何やら目をキラキラさせている。指差す先は和室で、銀時は忍者女のことかと思い至った。物音がすればすぐに気付けるよう少し襖を開けていたのだが、気になって覗いてしまったらしい。

「ちげーよ。銀さんのタイプじゃありません」
「タイプってのは人を好きになれば変わるってマミーが言ってたネ」
「ああ、確かに。俺もあんな奴に惹かれるたァ欠片も思ってなかったもんなー。変わるもんだよ」
「タイプの話してんじゃねーよ!!てことはアレですか、やっぱり雪路くんや奥さんがいるにも関わらず浮気ですか!?」
「そのやっぱりって何?何で銀さんそんなに信用されてないの?」
「新八、男は若いうちに遊んでた方がいいのヨ。じゃないとイイ年こいてから若い女に騙されたり、変な遊びにハマったりするってマミーが言ってたよ」
「お前のマミーも苦労したんだな」

タイプじゃない人を好きになって、その男がタチの悪い女に引っ掛かって苦労したということか。
目をキラキラさせて聞いてきたにも関わらず、神楽は忍者女が雪路の母親だとはあまり思っていないようだ。雪路の母親ではないと言ってもあまり反応はない。代わりに新八が煩いが。

「神楽はアレが雪路の母親じゃないっつってもあんま騒がねーな」
「あの女、雪路とは顔の系統が違うネ。それに銀ちゃんは頼り甲斐のあるしっかりした人が似合うヨ。銀ちゃんと感覚が合えばなおヨロシ。あの女は頼る側っぽいアル」

神楽の相性診断によると、確かに高杉は頼り甲斐があるだろう。戦の作戦なども基本任せていたし、今も救援物資を送ってくれたり金銭面でも頼もしい。芯もしっかりしていて、信頼出来る。似た者同士でもあるので、感覚も合うだろう。パーフェクトに当てはまってやがる。あまり相性が良すぎても高杉だと思うと逆にムカつくのは何故か。
それにしても頼りになる人がいい、と言うことは銀時は頼りないと思われているのかもしれない。なんということだ。新八からの信用のなさといい、何とかしないと。

「うーん……」

さすがに煩かったのか、忍者女が起きた。朝食を食べながら話を聞くことにする。忍者女に振る舞う気はなかったのだが、勝手に茶碗を持ち出しご飯や味噌汁をよそい、どこから出したのか納豆を練りだした。

「で、アンタなんなの?」
「何って、私から言わせるの?さっ、アナタ。納豆がホラッこんなにネバネバに練れましたよ。はいアーン」
「いだだだだ、そこ口じゃないから。そこ口じゃないよ。目は口程にものを言うけど、口じゃないよ」

納豆はそこまで好きじゃないので、顔中で食べたいとは思わない。

「だからアンタなんなの」
「何って……夫婦じゃないの?責任とってくれるんでしょ。あんなことしたんだから」

身に覚えのない責任を取らされるなんて、どんな孔明の罠だ。

「あんなことって何だよ!何もしてねーよ俺は!」
「何言ってるの。この納豆のように絡み合った仲じゃない」

まったく自慢じゃないが、銀時はそういった経験はあまりない。片手の指で足りる程度だ。少し情けない事情があって娼婦も買ってないのに、いきなりそんな主張をされても困る。

prevnext

Back
bookmark
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -