04
「で、お前三郎に伝えたいことある?」
「ア?……オイ、まさか」
「そーそのまさか」
「なら、“お疲れさん”って伝えてくれや」
「りょうかーい」

気軽に返事をして高杉に佳月を預けると、銀時は走り出す。カラクリは一般客に手をあげないよう教えられているようで、容易に舞台へ近付けた。新八が説得しているようだが、ただの言葉じゃ源外は止まらないだろう。

「オウオウ、随分と物騒な見せもんやってんじゃねーか。ヒーローショーか何かか?俺にヒーロー役やらせてくれよ」
「てめーじゃ役者不足だ。どけ」
「しょうもねー脚本書きやがって、役者にケチつけれた義理かテメー。今時敵討ちなんざはやらねーんだよ。三郎が泣くぜ」
「どっちの三郎だ」
「どっちもさ。こんなこたァ誰も望んじゃいねー。アンタが一番わかってんじゃねーのか?」
「……わかってるさ。だがもう苦しくて仕方ねーんだよ。息子あんな目にあわせて、老いぼれ一人のうのうと生き残ってることが。戻らねーモンばかりながめて生きていくのは、もう疲れた」

その気持ちは銀時にもよくわかる。あれだけ仲間を死なせて、自分だけ生きていていいのか。そういう気持ちもある。けれどだからこそ、そういうのも背負って皆の分も人一倍生きてやるんだと思っている。

「将軍のクビなんざホントはどーでもいいんだ。死んだ奴のためにしてやれることなんざ、何もねェのも百も承知……。俺ァただ自分の筋通して死にてーだけさ。だからどけ。邪魔するならお前でも容赦しねェ」
「どかねェ。俺にも通さなきゃならねー筋ってモンがある」

銀時と三郎の間に、緊迫した空気が漂う。銀時は木刀に手を添えた。

「撃てェェェ!!」
「らァァァァ!!」

銀時は三郎を切るため走る。しかし三郎は源外の言葉に従わず腕を下げた。

「!!」

三郎に戦意がないからといって、銀時は止まらない。逆に三郎の意思に従い切り裂いた。倒れる三郎にそっと触れ腕を撫でると、源外に場所を譲る。

「三郎ォ!!三郎、バカヤロー!なんでオメー撃たなかっ……」
「……オ……親父……油マミレ……ナッテ、楽シソーニ……カラクリ……テルアンタ……好キダッタ……。マルデ……ガキガ泥ダラケ……ハシャイ……デルヨウナ……アンタノ姿……」

三郎の動きが完全に止まった。三郎がメインコンピューターの役割も担っていたようで、他の暴れていたカラクリ達も動きを止める。

「……なんだってんだよ、どいつもこいつも。どうしろってんだ!?一体俺にどーやって生きてけっていうんだよ!」
「さーな。長生きすりゃいいんじゃねーのか……」

三郎の言葉で源外は止まった。
銀時の目には三郎が重なって見えていた。それが段々ズレ始め一人の男が浮かび上がる。

「三郎、アンタの隊長から伝言だ。“お疲れさん”だと」

――銀時さん。……ありがとうございます。

「そうだ、レゴありがとな」

――はい。父を、お願いしますね。

「あァ、任せとけ」

三郎は笑顔を浮かべ、消えていった。彼は人間の三郎の心の一部だ。おそらく三郎と名付けられたカラクリに引き寄せられ、カラクリの心と融合していたのだろう。それも両方、もう消えてしまったが。
銀時と三郎のささやかなやり取りは、源外だけが聞いていた。

「おめェ、今のは……」
「新八、神楽見つけて先帰ってくれるか?俺はジーさんを溝にでも捨ててくっからよー」
「はい、わかりました。無事に帰って来て下さいね!」

意図は通じ、新八は走り去った。銀時は源外の腕を引き逆方向へと走る。

「おらジーさん自分で走れ」
「おい、今のは何だ」
「あー?耄碌して幻聴でも聞いたか?」
「……いや、いい。三郎は何か言ってたか」
「カラクリの三郎が言ってたろ。あれがすべてだ」
「そうか……」

ゴーグルを外し目を腕で拭う源外から目を逸らす。
人気のなくなった道を真選組に会わないように走り、高杉と分かれた場所についた。

「銀時」

囁くような声に顔を向け、高杉の姿を見つける。先導するように走る背中について行く。源外は高杉を見て何か言いたげだが、今は黙って走った。
人気のない路地を何本か通り、やがて一軒の宿に着いた。裏口から入り、二階の端にある部屋に入る。

「今は幕府の狗がうろついているが、明日になれば減るだろう。それまでここで身を隠しな」
「そりゃいいが、てめーら知り合いか?どういうことだ!?」

自分を唆した男と止めた男が共にいれば驚くだろう。そして、何かの陰謀だろうかという疑念も抱く。疑いを晴らすため、銀時は高杉の頭を叩き口を開く。

「悪いなジーさん、止めれねーで。俺はコイツと知り合いだが、今回の件は何も知らなかったんだよ。ほれ、お前も謝っとけよ」
「……利用して悪かった」
「いや、それはどーでもいいとゆーか」
「え?」
「は?」
「それより気になることがあるとゆーか。何でその子供ら、お前らに似てんだ?」

場がシーンと静まり返った。そりゃ気になるだろう。目の前の男二人にそっくりな赤子を、片方の男が抱いているのだ。しかも赤子二人ともが顔立ちや色彩など、銀時と高杉をミックスした感じに似ているのだから。

「ええと、な?その……」
「そりゃ俺達二人の子だからだ」

(ちょっとバカ杉ー!!)

銀時は赤面しつつ内心絶叫した。銀時だって否定するつもりはない。ないが、あっさりし過ぎではないか。
源外は高杉のあまりに堂々とした態度に「そうか」と頷いてしまった。銀時はなんとなく、言い訳したい気持ちになり子供が出来た経緯について話す。

「そうか……てめーも苦労してんだな」
「ああ、まァ……」

同情された。
源外は眠っている雪路と佳月を覗き込む。

「可愛い子達じゃねーか。てめーらは俺達みたいになるんじゃねーぞ」
「へっ、嫌だね。ジジイ達みたいになってやらァ」
「一つの事に一緒に打ち込めるような、な」
「言うじゃねーかてめーら」

銀時は高杉から雪路を横抱きで受けとる。雪路と一緒に紙袋も渡された。

「雪路の育児日記と、当面必要そうなモンが入ってる。大きな奴は明日万事屋に届く手筈になってるからな」
「高杉。てめー俺が育児引き受けるの、最初からわかってやがったな?」
「まァな。俺はてめーのこたァそれなりにわかってるつもりだぜ」

高杉に笑って言われると、キュンときそうな言葉もイラッと来るのは何故だろう。高杉を睨んでから、当分会えない佳月を見つめる。

「佳月、元気でいろよ。雪路と離れて寂しいだろうが、その分高杉がいてくれるだろうからよ」
「今はまだ無理だが、落ち着いたら万事屋に行くから。連絡先は一応渡しとく」

番号の書かれた紙を受け取り紙袋に入れる。
落ち着いたらということは、今はまだ忙しいのだろう。連絡先を教えられたが、連絡するのは極力控えた方が良さそうだ。何がトラブルになるかわからない。

「じゃーな。ジーさんも頑張って逃げろよ」

高杉の肩を叩き、部屋を出る。もう夜も遅い。雪路が風邪を引く前に帰らなければいけない。




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