03
混乱の極みにいる銀時に、高杉は赤子の顔を見せた。二人とも起きていて、大変可愛らしい。高杉の服を掴んだり腕を振ったりして、ご機嫌だ。

「……あれ?こいつら……何か見たことね?」

右手に抱えられた赤子は、真っ直ぐな白銀の髪に明るい緑の瞳をしていた。顔立ちは高杉似だろう。子供の頃の高杉によく似ている。
左手に抱えられた赤子は、真っ直ぐな紫がかった黒髪に赤い瞳をしていた。顔立ちはお母さん似だろうか。高杉には似ていない。というか、どこかで見たことのある顔だ。
首を傾げる銀時に、高杉が一枚の写真を差し出した。幼少期に撮られた数少ない写真だ。松陽が撮ったもので、銀時と高杉と桂が写っている。その内の一人に、左手側の赤子はよく似ている。

「ああ、なるほど。こっちの子は俺似かァ。すっきりしたー……何て言うかァァァァァ!!どーゆうこと!?ねェ、これどーゆうこと!?」
「うるせェ。わめくな」

高杉は顔をしかめるが、銀時は悪くないはずだ。何故高杉の子供の一人が銀時に似ているのか。

「もう一年半前か。てめーのを扱いて持って帰っただろ。そっから天人の技術を使って俺のと遺伝子を掛け合わせて出来た子だ」

確かに、戦後一度だけ高杉に会ったことがある。その時何故か子種を奪っていかれたのだ。そういう関係でもなし、今までそういったこともなかったから驚いた。気が狂ったのかと思った。

「え、なに正真正銘俺達の子だってのか」
「おう。首が据わらねーと遠出が出来なくてな。連れて来るのが遅くなった」
「てことは誕生日は?」
「白い方が三月十六日。黒い方が三月十七日だ。双子ってわけじゃねーし、統一しなくてもいいだろ」
「性別は?」
「両方男だ」

何となく、本当に銀時と高杉の子らしいというのはわかった。ジッと赤子二人を見つめる。黒い子がキャラキャラと笑いながら手を伸ばしてきた。思わず指を差し出すと、小さな手にぎゅっと力強く握られる。
なんだか泣きたくなってきて、銀時は顔を伏せた。

「何考えてんだてめェ」
「まァ、色々考えちゃいるがな。てめーが無茶しねーにはどうするかとか、てめーが変な女に引っ掛からねーにはどうするかとか、てめーのツラ戻すにはどうするかとか。子供がいりゃ、ちったァマシになんだろ」
「何でその考えからその結論!?」
「一番は、俺がてめーとの子供を欲しいと思ったからだ」

そんな安易に命を弄ぶんじゃないと銀時は憤ったが、最後の理由に虚を突かれる。何だ、それは。

「黙って行動したことは悪いと思うが、てめーはどうだ?こいつら、育てたくねェか?なら俺が責任とって一人で立派に育てる」
「誰もそこまで言ってねーだろ……」

まず子供とは夫婦が作るものであって、銀時達は男同士なのを抜きにしてもそういった関係じゃない。だから段階的には大分すっ飛ばしているのだが、銀時は赤子達の顔を見ていらない等とは言えなかった。高杉のことを憎からず思っているし、子供もすでに愛しいと思ってしまっている。

「……俺も、お前との子ならいいよ」

プロポーズをするようで照れ臭くて、囁くほど小さな声になってしまった。しかし高杉はしっかり聞き取ったらしく、満足そうに笑った。その顔には安堵も含まれている。

「なら、コイツに名前つけてくれや。てめーにつけさせようと思って、今までずっと“坊”だったんだぜ」

頭の黒い方の赤子を差し出された。おっかなびっくり、高杉の真似をして抱く。高杉はすでに堂に入ったものだが、銀時は腰が引けている。赤子の温もりが心地好く、柔らかさが怖い。

「名前って……そっちの子は?」
「コイツは俺がつけた。雪路(ユキジ)だ」

頭の白い方は名前が決まっているらしい。春生まれなのに雪という字が入っていて、由来がさっぱりわからない。

「由来はなんだよ」
「教えるわけねーだろ」
「なんっだそれ!」
「……幸せになるようにって事だ」

由来は教えてくれなくても、込められた意味は教えてくれた。渋々というのが表情からわかったが。
銀時は何と名付けよう。こういうのは親の願いを込めるものだが、どういったものにするか。赤子の顔を見ながら、考えを巡らせる。
高杉と同じ髪に、銀時の瞳と顔立ちの子。猫目をきょとんとさせ、銀時を見上げている。

「そうだなァ……佳月(カヅキ)ってのはどうだ。佳い月で、佳月」
「いいんじゃねェの。良かったな坊。おめーは今から佳月だ」

わかっているのかいないのか、佳月と名付けられた子はにこっと笑った。
佳月というのは美しく在れという思いが込められている。見てくれの話ではなく、美しい心で生きて欲しいという意味だ。
銀時が一番美しいと思うのが、高杉だったりする。その心も、眼差しも、生き様も美しい。だからその高杉を思わせる月の字を入れた。

「てめーは雪路を育てろよ」
「名付けたんだから佳月じゃねーの?」
「てめーとは暮らせねーから、せめててめーにつけられた名前を名乗らせてやりたかったんだよ」

なるほど、と銀時も納得する。子供が出来ても、二人は共に暮らす気はない。子供には悪いと思うが、お互いに役割があるのだ。共に暮らせるとして、それはまだ先だろう。銀時が佳月にしてやれることは当分何もない。
雪路と佳月、二人の赤子を見て銀時のずっと塞いでいた心が晴れる。この子達は銀時と高杉の子で。誰の代わりでもなく、自分はしっかりと存在している。初めてそう心から思えた。二人の存在が、銀時を確かな存在にしてくれた。

「お、始まったぞ!」

辺りがざわつき出し、人々は舞台に注目しだした。源外が舞台に上がったようだ。

「そうだ高杉。てめーの部隊に三郎っていたよな?いっつもガラクタ弄ってた」
「何で知ってんだァ?」
「だってレゴブロック作ってくれたのアイツだし」
「マジか」

高杉と並んで見ていると、カラクリの三郎が花火を打ち上げる。数発の花を空に咲かせると、三郎は将軍の座す櫓に砲台になっている腕を向けた。

「オイオイなんだ?」
「カラクリがこっちに砲門を!?」

客が事態を把握する前に、三郎は撃った。煙幕だったらしく、辺りに煙が広がる。客は慌てて逃げ出したので、赤子を抱えている銀時と高杉は端に寄った。

「奴ァ剣はからっきしだったが、機械には滅法強い男だった。俺は戦しにきたんじゃねェ、親子喧嘩しにきたんだって、いっつも親父の話ばかりしてるおかしな奴だったよ」

しかし父親と仲直りすることはなかったのを、銀時も知っている。鬼兵隊の首が晒されていると知り、無理をして江戸へ見に行き確認したのだから。晒された首の一つに、三郎の首があった。

「だがそんな奴も親父の元へ帰ることなく死んじまった。全く酷い話だぜ。俺達は天人から国を護ろうと必死に戦ったってのに」

肝心の幕府はさっさと天人に迎合し、天人との関係を危惧し侍を切り捨てた。攘夷志士狩りが始まり、銀時達はとても合流は出来ないと散り散りに逃げた。そして鬼兵隊は粛清の憂き目にあい壊滅したのだ。
銀時の部隊の者も、何人も粛清されたと聞いた。可能な限り銀時は足を運び自分の目で確かめた。今も晒された首の光景は目に焼き付いている。

「河原にさらされた息子の首見て、親父が何を思ったかは想像にかたくねーよ」
「で、お前が首突っ込んだと。何考えてんのかは知らねーが、ジジイを逃がすルートは押さえてんだろ?なら俺が連れて来るわ」

何を考えてこんなことをしているのかはわからない。どこかから目を逸らさせるのが目的か、騒ぎを起こして知りたいことがあったのか、三郎に対して何かしたいと思ったのか。初めから後を銀時に任せるつもりだった可能性もある。理由はわからないが、高杉の人を動かす力は相変わらずだとわかった。

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