03
「――――ッッ!!!」

叫んだつもりだが自らの声は聞こえず、勢いよく体を起こした。

「は……はぁ、はぁ……っ」

荒い呼吸を繰り返し額の汗を手で拭う。今いる場所を確認すると、和室に敷いた布団で寝かされていた。襖が開き、誰かが部屋に入ってくる。

「うなされていたようだな……昔の夢でも見たか?」
「ヅラ?なんでてめーが……」

銀時は意識を失う直前の記憶を思い出す。連れて行かれる、新八と神楽。

「そうだ!……っ!?」

早く助けなくてはと立ち上がろうとするが、体が痛み布団に倒れ込む。

「無理はせぬがいい。左腕は使えぬ上肋骨も何本かいってるそうだ。……ところでその右腕はどうした?顔色の悪さも、怪我のせいではなさそーだが」
「あー……右腕は女の執念だよ。顔色の悪さはアレだ、二日酔い」
「お前いつか殺されるぞ、アイツに。お前が二日酔いなど珍しいな」
「好きで女に絡まれてるわけじゃねー。絡まれるならアイツのがマシだな。酒は現実逃避というか……最近家計がヤバいんだよ」
「ノロケはいらん。夜兎の娘とあの犬か」
「ノロケじゃねーよ!何で神楽はまだしも定春を知ってんだよ……」

桂とどうでもいいことを話して少し落ち着き、銀時は溜め息を吐き身を起こす。

「ハム子はどうなった?」
「むこうはもっと重傷だ。お前がかばったおかげで外傷はそうでもないが、麻薬にやられている。死ぬまで廃人かもしれん」
「クソガキめ、やっぱりやってやがったか」

ハム子で通じる辺り、桂も感性が同じだ。

「というか貴様はなんであんな所にいたんだ?」
「というか何でお前に助けられてんだ?俺は。というかこの前のこと謝れコノヤロー!」
「というかお前はコレを知っているか?」

桂が示したのはビニールに入った白い粉だ。例え中身が小麦粉だろうと、今は危ないお薬に見える。そしてこれは小麦粉ではなく正真正銘の麻薬だろう。
桂の説明によると最近巷で出回っている“転生郷”と呼ばれる麻薬らしい。辺境の星にだけ咲くと言われる特殊な植物から作られ、嗅ぐだけで強い快楽を得られるが依存性の強さも他の比ではない。流行に敏感な若者達の間で出回っていたが、皆例外なく悲惨な末路を辿っている。

「天人がもたらしたこの悪魔を根絶やしにすべく我々攘夷党も情報を集めていたんだ……そこにお前が降ってきたらしい。俺の仲間が見つけなかったらどうなっていたことか……」

桂の仲間に拾われ、かつその仲間が銀時の顔を知っているとは運が良かった。持つべきものは頼りになる幼馴染み様である。

「……というか、お前はなんであんな所にいたんだ?」
「仕事でハム子を探しに。というかアイツらは一体なんなんだ?」
「宇宙海賊“春雨”。銀河系で最大の規模をほこる犯罪シンジケートだ」

主な収入源は非合法薬物の売買による利益であり、その触手の末端が地球にも及んできている。

「天人に蝕された幕府の警察機構などアテにできん。我等の手でどうにかしようと思っていたのだが。貴様がそれほど追い詰められる位だ……よほど強敵らしい。時期尚早かもしれんな」

言い訳になるが、銀時は元々右腕と左肩を怪我していたし二日酔いで体調最悪だった。なのでそこまでの強敵とは思えない。無茶すればどうにかなる範囲だ。新八と神楽が連れ去られているのだ、無茶してでも取り戻す必要がある。
衣桁に掛けられていた長着を手に取り腕を通す……が、左腕が動かない。仕方なく、右肩に掛けて持つ。

「オイ、聞いているのか?」
「仲間が拉致られた。ほっとくわけにはいかねェ」
「その身体で勝てる相手と?」
「……桂、俺の手にまだ残ってんのは何がある?」

夢で魘され弱気になっていたのかもしれない。もっと強気にいこうと思ったのだが、確認というより縋るような声になってしまった。まだ、銀時の手に残ってくれているものはあるだろうか。

「……俺が知ってる範囲ならば、俺と、高杉と、坂本。あとは江戸外れのジーさんか?」
「お前ジーさんのこと知ってたのか」
「まぁな。勧誘に行ったのだが、『俺の隊長はアイツだけだ』と断られた。お前の手にはまだあるんじゃないのか、お前が知らないだけで多くのものが」

あの爺も予想外なことを言う。お陰で意外と多くのものが残っていると知れた。銀時は自分の手からこぼれないものがあるなら、それを新しいものを背負う気力に出来る。そうして、今まで色んなものを背負ってきた。

「そんだけありゃ十分だ。知ってんだろ、俺は一度背負ったものは何であれ下ろさねぇんだ。いつの間にか新しい荷物を背負い込んでた。それを落としそうになってる今、拾いに行かねーと」
「貧乏性め」

銀時の厄介な性質は桂も嫌というほど理解している。生者も死者も関係なく背負い込んでしまうのだ。死者に関しては死なせてしまった者も、自ら殺した者も。生者に関しては受け入れる範囲が意外と狭いためまだ安心しているが、今まで何度捨てさせたいと思ったことか。それが叶わないから、桂達は手を伸ばし支えてしまう。見ていて危なっかしい銀時の荷物を、時折共に持ってやるのだ。

「仕方あるまい。お前には池田屋での借りがあるからな。ゆくぞ」
「あ?」
「片腕では荷物など持てまいよ。今から俺がお前の左腕だ」

今回もこうして、桂は銀時を支える。銀時が潰れてしまわないように。





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