02
「そいつァ光栄だ。ついでに俺の嫌いな奴三つも教えてやろーか?」

トイレを歩き回った靴で陀絡の頭を踏んでやり、その背後に着地する。
嫌いな奴と言ってもすぐにそれっぽいのは浮かばない。なので適当に並べることにした。

「ひとーつ、学園祭準備にはしゃぐ女子!」

口元を布で覆った天人を退治。

「ふたーつ、それに便乗して無理にテンション上げる愚の骨頂男子!」

猿っぽい顔をした天人を退治。

「みーっつ、それらを全て包容し優しく微笑む教師」

最後に犬顔の天人の首に腕を回し退治。

「てめェ、要するに学園祭が嫌いなだけじゃねーか。よほど暗い青春おくったな……」
「てめーほどじゃねェよ。いい歳こいて便所でスーパッパか?」

残念ながら今の人生で学園祭に参加したことはない。青春時代は陰気な戦場でデンジャラスに過ごした。

「もっともてめーらが好いてるのはシャレにならねェハッパみてーだがなァ」

ハム子のむっちりした腕を肩に回し、どうにか体を支える。幼馴染みたちを担いだことはあるが、それより重い。ということは銀時よりも重いだろう。こののしかかる感じ、友人の一人坂本と同じくらいか。坂本は身長180cmはあったが、ハム子はそれより20cmほど低い。やっぱり豚ハムだ。

「天人が来てから世の中アブねーもんも増えたからよォ。困るぜ、若者をたぶらかしてもらっちゃ」
「たぶらかす?勝手に飛びついてきたのはその豚だぞ。望み通りのモン用意してやったのにギャーギャー騒がれて、こっちも迷惑してんだ」
「そーかい。バカ娘が迷惑かけて悪かったな。連れ帰って説教すらァ」

ようやくトイレから出れると思ったが、扉を開ければ多くの天人が取り囲んでいた。

「オイオイ、みんなで仲良く連れションですか……便器足んねーよ……」

ハム子を抱えてこの数を相手にするのは難しいだろう。ミッションレベルの高さに顔がひきつる。

「オラッ、ちゃちゃっと歩かんかイ!」
「こいつフラフラじゃねーか情けねェ!」

人垣の向こうから聞こえた声につい目を向けると、虚ろな目をして連れて行かれる新八と神楽の姿があった。これには焦る。ヤバい薬でも嗅がされたのか。ここにはそういったものがたくさんあるはずだ。

「新八!神楽!オイ!……てめーらァァ!!」
「お前、目障りだよ……」

焦りと怒りで余裕のなくなっていた銀時は陀絡に左肩を突き刺され、突きの勢いの良さに後ろへ吹っ飛び窓を突き破り宙へ投げ出された。
空中で銀時に出来たことはハム子の下に体を滑らせることだけだった。





―――――――――――

暗く、地を屍が埋める世界。そこは始まりの地によく似た、死の世界だった。銀時の見慣れた世界でもある。人の命など一瞬でなくなり、死ねば何の価値もない存在へと成り下がる場所だ。そこで銀時は一人の男を背負っていた。

「ふんばれ、オイ。絶対死なせねェから。俺が必ず助けてやるからよ」
「捨てちまえよ」

朽ち果てた骸が声をかけてきた。

「そんなもん背負ってたらてめーも死ぬぜ。どーせそいつァ助からねェ。てめーにゃ誰かを護るなんてできっこねーんだ。今まで一度だって大切なもんを護りきれたことがあったか?
先生も、仲間も、高杉も。全然護れちゃいねェ。てめーは誰も護れねェ。馬鹿みてーに背負うだけ背負って、終いにゃ動けなくなるんだ」

背負った体が、急に重くなったように感じる。骸の言葉通り、銀時は一歩も動くことが出来なくなっていた。

「てめーは無力だ。もう全部捨てて楽になっちまえよ……」

そんなことは知っている。けれど捨てるわけにはいかない、捨てたくない。生も死も、自分が死ぬ時に全て抱えて持っていくのだ。
重くなった背中が、次は温かく感じた。生ある人のぬくもりだ。

「どうせてめーは代わりの存在なんだ。他人の人生歩んで何になる?すべて捨て、すべて忘れて生きていけよ。――なァ、銀時?」

声は背負った体から聞こえ、その声は自分と同じものだった。


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