01
居候が増えた。神楽が拾ってきた……というか万事屋の前に捨てられていた定春という、銀時よりも大きな犬だ。これがまたその体に見合うだけの量をよく食う。一日ドックフード七袋なんて、ふざけてるんじゃないのか。神楽と定春で坂田家のエンゲル係数がうなぎ登りに上昇している。そんなうなぎ登りはいらない。
どれだけ働いても食費が追い付かない。新八にも最低賃金な給料しか渡せず、神楽の給料は八割を食費として徴収している。節約しても足りない。万事屋を辞めれば養える職業はいくつか思いつくのだが、それはあまり気がすすまない。新八と神楽を雇えなくなるのもある。しかし元々定職につかず万事屋を営んでいるのは、自由に時間を使えるからだ。規格外な性格をしている友人たちは、銀時には劣るが皆トラブルの渦中にいるような人間だ。そんな彼らにいつでも手を貸せるよう、定職にはついていない。定職だからこそ出来る助けは、友人の一人坂本に期待している。だから今は陰でいくつか兼業しているのだが……誰か、本当に助けて欲しい。
ここで、思わず酒に逃げた銀時は悪くないと思う。しかし結果として、翌日大口の仕事が入っているというのに酒が過ぎ、現在二日酔いである。

「あー?知らねーよこんな女」
「この店によく遊びに来てたゆーてたヨ」
「んなこと言われてもよォ、嬢ちゃん。地球人の顔なんて見分けつかねーんだよ……名前とかは?」
「えーと、ハ……ハム子……」
「ウソつくんじゃねェ、明らかに今つけたろ!そんな投げやりな名前つける親がいるか!」
「忘れたけどなんかそんなん」
「オイぃぃぃ!ホント捜す気あんのかァ!?」

銀時はソファに身を預け神楽に聞き込みをさせたのだが、やはり解決する糸口は微塵も見つからなかった。
今回の依頼人は幕府の官僚で、一週間姿の見えない娘の捜索を依頼された。家の恥になるため警察には届け出ず、万事屋に頼んだらしい。見せてもらった写真には何というか……丸くて金髪に黒い肌のコギャルが写っていた。このパンチの効いた顔を見分けがつかないという天人の店員は、地球人全てに喧嘩を売っている。

「銀さん……神楽ちゃんに任せてたら永遠に仕事終わりませんよ」
「あー、もういいんだよ。どーせどっかの男の家にでも転がり込んでんだろあのバカ娘……」

若く派手な娘というのはそういうものだ。事件に巻き込まれている可能性の方が低い。

「アホらしくてやってられるかよ。ハム買って帰りゃあのオッサンも誤魔化せるだろ」
「ごまかせるわけねーだろ!」
「ワリーけど二日酔いで調子ワリーんだよ。適当にやっといてぱっつぁん」
「ちょっ、銀さん!」

このままでは仕事にならないので、用を足しがてら顔を洗いにトイレへ行く。個室に入りたそがれ、目の下を揉む。ここまで飲んだのは久しぶりで、鏡でかなり酷い顔色になっているのを見て絶句した記憶がある。朝見た時は肌の調子が最悪で色も青白く、目の下が隅になっていた。

「あ"〜〜、もう二度とこんな無茶な飲み方しない。飲んだところで問題は解決しないんだよ。現実逃避なのはわかってんだよ」

一人懺悔していると扉がノックされた。

「ハイ。入ってますけ……」
「いつものちょうだい」
「はァ?」
「早く……いつものちょうだいって言ってんじゃん!アレがないと私もうダメなの!」
「い……いつものって言われても、何?」
「何しらばっくれてんのよ。金のない私はもうお払い箱ってわけ!いいわよ、アンタらのこと警察にタレこんでやるから」
「ちょっと待てお前。え?警察に言う?別にいいけどお前……何が?って言われるよ」

大体ここは男子トイレのはずだ。なのに先程から意味のわからないことを言っている声は女のものだ。首を傾げていると銃声のような音がし……床を血が流れて来た。

「誰に話しかけてんだボケが……もうてめーには用はねーよ、ブタ女!」

急いで個室から飛び出すと、大柄な女を引きずる天人がいた。女が引きずられた後には、血が線を引いている。

「ちょうだい。アレを早く……お願い」

女は血を流しながらも何かを求めていて、よく見ればボンレスハムのような巨大に金の毛が生えたそれはハム子だった。

「ハム子ォ、悪かったなァオイ。男は男でもお前、エライのにひっかかってたみてーだな」
「陀絡さん、なんか妙なのが混ざっちまいましたけど……どーします?ちょっときいてますか?」

天人の一人が指示を仰いだ男は、必死になって袖を洗い流していた。ハム子の血がついたらしい。独り言の内容を聞くと、相当の潔癖症のようだ。

「陀絡さんってば、きいてます?」
「げふっ」
「身だしなみ整えてる時は声かけんじゃねーっつったろーが!」

声をかけた天人を蹴り飛し、袖の汚れは諦めたらしく手洗い場から陀絡が出てきた。腰の両刃剣を抜き銀時へ向ける。

「なんか困った事があったら取り敢えず殺っときゃいいんだよ。パパッと殺って帰るぞ。夕方から見てェドラマの再放送があんだ」

だから録画しとけと。確か前にも思ったが、人生何が起こるかわからないんだから録画しておけ。
銀時としては陀絡がドラマを見逃しても何の問題もないので、黙って木刀を構える。

「俺は元来そんなに人嫌いの激しいタチじゃねェ。だがこれだけは許せんというのが三つあってな。
一つ目は仕事の邪魔をする奴」

(あー俺思いっきり邪魔してんじゃねー?)

「二つ目は便所に入っても手を洗わん奴」

(出口をアンタが塞いでんだから、洗いたくても洗えるはずねーだろ)

「三つ目は汚ならしい天然パーマの奴だ」

(いるんだよな、不潔だ汚ならしいとか言ってストパしてない天パを排除しようとする奴。あれ意味わからん。銀さんチリチリじゃないからマシでしょ?)

「全部該当してんじゃねェかァァァァ!!」

突き出された剣を跳んで避け、トイレの壁が破壊される。


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