01
昨夜のすき焼きは、一瞬で無くなった。肉を食べれたかさえ記憶にない。うちに居候することになった少女はとんでもない胃袋おばけだった。次から次へ、炊き上がりおひつに移した側から平らげられる。食材はすべて一緒くたに炒めて薄口醤油で味付けして出し、買い置きの乾麺はすべて茹で上げ、味付け海苔も瓶を空にされ、カップ麺も全て湯を注ぎ、ふりかけやお茶漬けの素や漬け込んでいた漬物まですべて放出した。これで昨夜と今朝の二食分しかもたなかった。一人暮らしなためあまり数量はなかったが、どれだけ飢えていたのかと。夕飯を共に食べる予定だった新八と二人てんてこ舞いだ。昨夜が空腹過ぎただけで、さすがに今朝は少し控えめだった。しかし規格外な食欲を持つのは変わりない。これは坂田家食卓事情を真剣に考えなければやってられない。
精魂尽き果て食事の用意をする気にもならず、昼は階下の大家を訪ねた。

「おかわりヨロシ?」
「てめっ何杯目だと思ってんだ。ウチは定食屋じゃねーんだっつの。ここは酒と健全なエロをたしなむ店……親父の聖地スナックなんだよ。そんなに飯食いてーならファミレス行ってお子様ランチでも頼みな!!」
「ちゃらついたオカズに興味ない。たくあんでヨロシ」
「食う割には嗜好が地味だなオイ」

食費がまだ抑えられそうで結構な嗜好だが、料理人泣かせでもある。

「ちょっとォ、銀時!何なんだいこの娘!もう五合も飯食べてるよ。どこの娘だい!」
「五合か……まだまだこれからですね」
「もうウチには砂糖と塩しかねーもんな」

銀時と新八にはもう文句を言う気力さえない。銀時は疲れた時には取り敢えず甘い物をとパフェをつつき、新八は素麺のようにご飯を啜る神楽を見続けて食欲がない。

「なんなんだいアイツら。あんなに憔悴しちまって……ん?ってオイぃぃぃ!まだ食うんかいィィ!ちょっと誰か止めてェェェ!!」

お登勢の悲鳴に目をカウンターへ向けると、神楽が直接炊飯器から貪り食っていた。炊飯器を空にして落ち着いたようで、次はオレンジジュースを飲んでいる。
飯注ぎ係がいらなくなったので、この隙にお登勢に説明する。

「へェ〜。じゃあ、あの娘も出稼ぎで地球に。金欠で故郷に帰れなくなったところをアンタが預かったわけ……。バカだねぇ、アンタもそこまで儲かってないだろうに。あんな大食いどうすんだい?言っとくけど家賃はまけねぇよ」
「オレだって好きで置いてる訳じゃねぇよ、あんな胃拡張娘」

頭にコップが飛んで来た。避ける気力なく、頭がオレンジジュースまみれになる。

「なんか言ったアルか?」
「「言ってません」」

我が身が可愛い新八とお登勢は即座に否定した。

「いだだだ」
「アノ大丈夫デスカ?コレデ頭冷ヤストイイデスヨ」
「あら?初めて見る顔だな。新入り?」

濡れたハンカチを差し出してくれたのは可愛くない猫耳オバサンだった。親切に声をかけてくれたのに失礼なので、口には出さない。ありがたくハンカチを受け取り頭を冷やす。

「ハイ、今週カラ働カセテイタダイテマス。キャサリン言イマス」
「キャサリンも出稼ぎで地球に来たクチでねェ。実家に仕送りするため頑張ってんだ」

しっかりした娘……娘?だと思う。しかし顔の印象の強さに言葉が耳を素通りしそうになる。娘と言うには違和感があるが、女性と言う分類にも入れづらい猫耳オバサンだ。何故この顔で顔を強調するようなオカッパ頭なのだろう。

「すんませーん」

店の引き戸が開き、男が警察手帳をこちらに見せてきた。

「あの、こーゆもんなんだけど。ちょっと捜査に協力してもらえない?」
「なんかあったんですか」
「うんちょっとね。このへんでさァ、店の売り上げ持ち逃げされる事件が多発しててね。なんでも犯人は不法入国してきた天人らしいんだが、この辺はそーゆー労働者多いだろ。なんか知らない?」

この場に天人は二人いる。銀時はその内の一人、胃拡張娘を見た。

「お前、故郷に帰りたいっつったろ?この際犯人ってことにして強制送還でもいいんじゃね?」
「そんな不名誉な帰国御免こうむるネ。いざとなれば船にしがみついて帰る。こっち来る時も成功した。なんとかなるネ」
「不名誉どころか、お前それすでに犯罪者じゃねーか」

宇宙船にしがみついてても死なない体とか、夜兎丈夫過ぎる。
すでに犯罪者なのだから、罪状がいくつか増えたところで変わらないだろう。

「……なんか大丈夫そーね」
「ああ、もう帰っとくれ。ウチはそんな悪い娘雇ってな……」

お登勢の言葉が止まり、店先でエンジン音が響く。銀時のスクーターに乗りレジやら小さなタンスやら、ついでに鋼鉄製の傘を乗せたキャサリンがいた。

「アバヨ腐レババア」
「キャ……キャサリン!!まさかキャサリンが……」
「お登勢さん、店の金レジごとなくなってますよ!!」
「今乗ってったの俺の原チャリじゃなかった?」
「あ……そういえば私の傘もないヨ」

遠くの方で「バーカ」と叫ぶキャサリンが見えた。

「血祭りじゃァァァァ!!」

顔を歪め今にも走り出しそうな神楽を、地面にひっ倒して止める。

「まァ待て。金に余裕なくなったからな、ちゃんとスクーターも傘も取り返す。盗られて余計な出費して堪るか」
「じゃあどうするアルか!?」
「取り敢えずお前なら走っても原チャリに追いつけんだろ。大声上げながら追い掛けろ」
「わかったアル、行って来るネ!」

食費分くらい働いてもらおう。元気良く神楽は飛び出して行った。

「ちょ、神楽ちゃん!?銀さん!?僕らの出る幕じゃないですってコレ。たかが原チャリや傘でそんなにムキにならんでもいいでしょ」
「ばっかオメー、原チャ買い直したら二十万かかんだぞ。神楽の傘だって特注だろうし。神楽の乱暴な扱いに耐えれるんだ、きっと高い」
「ええええ!?」
「新八、お前はバーさんと一緒に店番しとけよ」

銀時は神楽を追うため万事屋の屋根から上へあがる。神楽の大声が聞こえる場所へ回り込むように、屋根の上を走り出した。





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