01
空でパンツをしゃぶしゃぶさせられるところだった志村妙を助けはしたが、何の縁か弟の志村新八を預かる事になった。銀時は万事屋開業時から従業員を雇うつもりはなかったのだが、妙の般若顔に押し負けてしまったのだ。別にいつでもクビは切れるからいいか、とパシり代わりにそれなりに重宝している。今も荷物持ちとしてスクーターの後部に乗せ、スーパーに行って来たところだ。

「……あ、しまったァ。今日ジャンプの発売日じゃねーか。今週は土曜日発売なの忘れてた。引き返すか」
「もういいでしょ。すき焼きの材料は買ったんだから」
「いいわけねーだろ。漫画雑誌ってのは発売したその日に読むのが醍醐味なんだよ」
「いい加減ジャンプ卒業したらどうですか」
「バッカおめー、少年ジャンプって言いながら一番売り上げに貢献してんの大人だぞ」

現在地から家までの距離と現在地からスーパーまでの距離を比較していると、いきなり少女が飛び出して来た。

「あぶね!!」

直前でハンドルを切り少女を跳ねることはなかったが、接触はしてしまい少女が地面に倒れる。接触だけでも、骨くらい折れている可能性がある。

「ちょ、怪我してねーよな?死んでねーよな!?」
「どーすんスかコレ!アンタよそ見してるから……」
「とりあえず落ち着け。きっと奇跡的に無傷に違いねェ。なァオイ、お嬢……」

横を向いていた体を仰向けにすると、どろりと血が流れた。新八は悲鳴を上げて少女を担ぎ上げスクーターの後部に乗り込み、早く早くと銀時を手招きする。

「医者ァアア!!」
「うるっせーな。オイ、ちゃんと小娘掴んどけよ」

新八が素早く担いだためよく見えなかったが、傷は多分スクーター接触によるものではなく、致命傷でもない。とは言え医者にかかるべき傷なのも確かで、銀時はスクーターを発進させた。

「様子はどーだ?」
「ピクリともしないよ。早く医者連れてかなきゃ」

怪我をしていたところにスクーターが突っ込んで失神、といった感じだろう。最寄りの病院目指し走っていると、つかず離れず追走している車に気付く。不審に思いスピードを落とすと、隣に並んだ車の窓が開いた。中にはパンチパーマのグラサン男がいて、こちらに銃を向けてきた。

「!!」
「ちょっ……何ィィィ!?」

パン、と乾いた音が二回響き発砲された。ルパンじゃあるまいし、銀時に銃弾を避ける運転技術はない。緊張が身を走ったが、銃弾は誰にも被弾しなかった。少女が所持していた傘を開き、銃弾を防いだからだ。気絶してたんじゃないのかとか、何故傘で銃弾がとか、言いたいことは幾つもあるが少女の行動はそれで終わらなかった。傘の先から何発もの銃弾が飛び出し、車を捉える。窓に蜘蛛の巣状のヒビが入り、前が見えない車は街路樹にぶつかり停止した。熱を持ち煙を放つ傘先に、少女はフッと息を吹き掛けた。





―――――――――――

場所を移し適当な路地裏。スクーターから下りた少女を見て銀時は固まった。地球人には中々見られないほど透き通った白い肌に、澄んだ青い瞳をした美少女である。問題の部分はチャイナ服っぽいのを着ていることと、橙色の髪を左右でお団子にしていることと、実は鋼鉄製だった傘を持っていることだ。先ほどは気絶していたため気付かなかったが、どこか見覚えがある。
視線を新八に移してみた。少女を何この子、といった目で見ている地味な少年だ。特徴と言えば印象に残るような、けれど顔立ちについては忘れさせてしまうような微妙な丸眼鏡をかけていることだけ。地味すぎる。
自身の容姿について思い出してみる。二十数年付き合った顔だ、鏡がなくとも思い出せる。白か銀か判別のつかない色合いの天パに、鮮やかな赤の瞳。地味に猫目で、よく眠そうな目と言われる。色素が薄いからか、肌は白い。のほほんのんびりでほにゃほにゃとした雰囲気をしているらしい。洋服の上に長着を重ね、腰には木刀を差している。……服の色は違うが、誰かに似ていないだろうか。極めつけに自身の名前は『銀時』である。

「……ッッ!!」

(銀魂の世界じゃねーかァァァァ!!!)

心の中で全力で叫んだ。生まれて二十数年、今まで気付かなかったが自分は銀魂の主人公になっていたらしい。ダラッダラと冷や汗を流しつつ誰とはなしに言い訳する。

(だっ……仕方ねーじゃん!俺漫画は単行本派の上ある程度巻数が揃ってから買うタイプだったしっ。確かそろそろ銀魂買うかって思ってた頃に転生したんだよな!だから今は後悔して本誌も買う派なんだし!)

しょうもない前世の後悔だが、読みたい漫画が読めなかったのは心残りの一つだった。

(主人公の名前が『銀時』ってのは知ってたけどフルネームなんて知らねーし!俺の顔、結構『銀時』から離れた顔してんじゃん!?死んだ魚の目なんてしてねーし!!自分の顔見て気付くかよッ)

中身が違うだけで大分印象が変わるということか。表情の作り方も違うし、雰囲気なども色々変わり造作の同じだけの人間となっていた。平面と立体の違いもあり、気付かなくとも仕方ないのかもしれない。必死に心にバリアを張るが、わかりやすい特徴のほとんどを引き継いでいるのもまた事実である。

(ストーリーはあんま知らねェし。新八を見たって気付かねーよ。コイツの特徴メガネだけじゃねーか。けど!この小娘はさすがにわかるよっ。ヒロインだろ!?ヒロインの神楽だろ!?)

衝撃の事実が明らかになり頭を抱えるが、とても処理仕切れない。もし銀魂について知っていれば、護れるものもあったのではないか。自分の存在とは一体何なのか。
――一先ずこのヒロイン神楽遭遇事件を解決するのが先だと、心のバリアを厚くし「KEEP OUT」のテープを貼り隔離した。ここまでの苦悩、スクーターを止めて十秒ほどのことである。

「お前ら馬鹿デスか?私……スクーターはねられた位じゃ死なないヨ。コレ奴らに撃たれた傷アル。もうふさがったネ」
「それ、弾貫通してたんだろうな?」

右肩をはだけて傷痕を見せてくれるが、血の跡しかついていない。弾が中に残っているなら問題だが、本人は肩をぐるぐる回しても平気そうなので大丈夫だろう。

「まァ、いいや。大丈夫そうだから俺ら行くわ。お大事に〜」

先日、銀時は幕府の入国管理局に仕事を押し付けられ面倒な目にあった。気持ち悪い皇子を見てしまったり、皇子のペットだと言い張る巨大タコと戦ったり、一人の無職を生産したり。当分面倒事は嫌だし、天人に関わりたくない。ちなみにこっそりタコの足を一本くすねて蛸ご飯にしたが、微妙な味だった。

「アレ?新八、お前急に重くなっ……あら〜」

進まないスクーターを疑問に思い振り返ると、神楽が片手でスクーターを止めていた。タイヤが傷むから離して欲しい。

「ヤクザに追われる少女見捨てる大人見たことないネ」
「世の中少女に優しい大人ばかりと思うなよ。これで勉強になったな。それにこの国では原チャリ片手で止める奴を少女とは呼ばん。マウンテンゴリラと呼ぶ」

いつまで経っても離してくれそうにないので、とりあえずエンジンを止めた。この際スクーターは放置して一度逃げるべきか。


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