あんなこと、いうんじゃなかった!
三木→綾滝
「それでね三木、滝ちゃんたらね…」
普段、喜八郎はあまり喋らない。
というか、あまり人と接することすらしない。
以前理由を聞いたことがあったけど、「人と話す時間があったら穴が掘りたい」と喜八郎らしい答えが帰ってきた。
それでも、最近喜八郎はよく喋る。
これはきっと良い傾向なんだろうと思うけど問題は話の中身で。
話の9割が滝夜叉丸の話。
喜八郎に想いを寄せている僕にとってこの時間は最も幸せで、最も辛い時間だ。
それでも、自分の想い人が幸せならばそれでいいじゃないかと多少自分を無理に納得させて毎日話を聞いている。
こうして、いつも2人でいる時間があるってだけで僕は十分だし、それを以上を望むのは高望みってやつだ。
それに、一番可哀想なのは僕じゃなくてタカ丸さん。
彼は僕と同室だから、一番の僕の良き理解者だ。だからこそ僕が辛いのも、この2人で話す時間が無くなったら、喜八郎と僕が話す機会が何一つとしてないのも知ってる。彼は優しいから、今の状況を目の前にして何も出来ないのが辛いだろう
それでも、やっぱり喜八郎と話がしたくて、ズルズルと色々なことを引き伸ばしていた。
「…三木、どうしたの?」
僕が浮かない顔をしていたのが気になったのか、喜八郎が僕の顔を覗き込む。
ああ、この綺麗な瞳に僕が映るのはこれが最後かもしれない
「自分の想い人が、目の前で他の想い人の話してたら、悩みたくもなるさ」
あの喜八郎が、珍しく固まったのを見て、僕は無理に微笑むしかなかった。
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