ワイングラスに注いだ熱情




真生×冬樹


「今日は、乾杯しようか」

そう言って真生はグラスに静かにワインを注いでいく。
もちろん、大学生のしかも男の家にワイングラスなんて洒落たものなんてない。
どっかでこいつが調達してきたペアグラスだ。
ペアなのは気に食わないが、色自体は濃いけどガラス特融の透明感のある緑色が気に入っていた。

「なんだよ、今日なんか特別な日だったか?」
「まさか、それだったら朝から騒ぐに決まってるでしょ?」

ボトルを置いて片方のグラスを俺に渡して、俺の横に腰掛けた真生に、それもそうだとも思って再び考える。
なら、今日は良いことがあったとか。
いや、今日は一日中コイツと一緒にいたけど特にそんな様子もなかった。つまり本当にただの気まぐれなんだろう。

考えることをやめて真生を見ると、視線に気づいたのかこっちにグラスを差し出す。
軽くグラスをぶつけるとカチンと綺麗な音がした。
それになんだか気分がよくなって、軽く口に含むと辛さが舌を刺激した。

「…ドルチェット?」

そう呟くと真生は満足そうにうなずいた。
ワイン独特の酸味がどうしても苦手で好きになれなかった俺に以前これなら絶対に大丈夫だと真生に勧められて飲んだのがドルチェットだった。
この辛みが癖になって唯一飲める種類だ

「ちなみに今回はコルデーロ・ディ・モンテゼーモロね」

ね、って言われてもそんな細かいのは覚えてられないから返事はせず味を堪能する。
真生のセンスは何に関してもいい。
知ってか知らずか、俺の好みをピンポイントについてくる。

気分よく飲んでると、真生が俺の頬に手を伸ばす。
それに合わせて目をつむると同時に唇が落ちてくる。
コイツのキスはすごく優しい。
死んでも言わないけど嫌いじゃない。
唇が離れると抱きしめられる。

「今日は冬樹、素直だね」
「酒がドルチェットだからな」

そう答えると真生は楽しそうに笑った。

「じゃあイチャイチャだらだらしたいって言っても怒んない?」
「酒がもったいない」
「後でドルチェットでコンポート作ってやるよ」

好きな酒で作るなんて贅沢だろ?
なんていうからなんだかそれもいいかもしれないなんて思って2人でベッドに倒れこむ。

「冬樹ってドルチェットみたいだな。ぱっと見は愛想悪いけど実は人に甘いし優しい」

だから、不安になるなんて言って無理に笑って額に口づけるから、軽く頭を小突いてやる。

「知ってっか?ドルチェットの甘さは、ドルチェットを知り尽くしてるやつしかわからねぇらしいぜ」

そういうと真生は一瞬きょとんとしてふわりと笑った。
俺の好きな笑顔で。

もしかしたら、普通なら真生の愛は重いと感じるのかもしれない。
でも、このひたすら俺にだけ熱心なこいつがなんでか愛しくて仕方ない。


(もちろん、これも死んでも言わねぇけど)





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