「おはよう」
「…周君?」
目の前で大きな目を更に見開いて瞬きをする彼女にクスクスと笑う。
「え、なんでここに?」
「家の大体の場所は聞いてたし、君のことだから幸村が学校に到着する前には来るだろうなって思ったら僕が行く時間と重なったからさ」
「…周君すごいね、柳みたい」
「ははは、それは乾に言ってあげてよ」
そう、今日は幸村が緊急に申し込んだ練習試合当日だ。僕は先述した通りの理由で彼女の家の近くにいた。
「ってことで」
「ん?」
「お手をどうぞ、お姫様?テニスコートまで案内させていただきます」
微笑みながら手を差し延べると、彼女は一瞬ぽかんとした後すぐに笑い始めた。
「周君、はまりすぎ…っ」
「そう?面白いかなって思ってやってみてるけど実は内心引かれたらどうしようって思ってる」
「あははっ、も、笑わせないで!」
盛大に笑った後、クスクスと漏れる笑いをごまかせないまま彼女は自分の手を差し出してきた。
「…よろしくお願いします、王子様?」
にっこりと微笑んだ彼女と目が合って、次の瞬間二人で吹き出した。
「君はほんとに面白いね…っ」
「周君には負けますー、っあはは、楽しっ」
暫く笑い合った後、なんとなく手を繋いだままにして学校へと足を進めた。
「幸村と試合は初めてだなあ」
「そっか、自信は?」
「うーん…どう思う?」
彼女の返答を試してみた。こういう時、この子はなんて言うんだろう。
「わかんないよ、そんなの」
バッサリと言い放った彼女の言葉に思わず目を見開いた。
「…幸村が勝つって言うと思った。幸村の強さを間近で見てきたんじゃないの?」
「見てたよ。でも私はテニスできないし、せー君みたいに努力したこともないからそれがどれだけ大変ですごいことなのかなんて分からない。それに、私は周君の努力を間近で見たことがないから」
次々と溢れる言葉をじっと聞いていると、彼女は横顔を綻ばせて言葉を続けた。
「周君の努力や強さを知りもしないのに、どっちが勝つなんて私にはわかんない」
すごい、単純にそう思った。絶対王者の立海で頂点に君臨する幸村をずっと見てきて、やっと知り合っただけの男と比べてそんな言葉が出てくるものなんだろうか。
「…じゃあ、見ててよ」
どうしよう、楽しいや。こんなことを考えるなんて。
「僕が幸村に勝つところ、見てて。君に僕の方が強いって言わせてみたいな」
誰かに、勝利を見せたいなんて。
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