「今週末、立海から練習試合の申し込みがあった。各自気合いを入れて臨むように。以上、油断せずにいこう」


手塚の言葉に思わず笑いが出た。
幸村、君がそんなに単純だとは思わなかったよ。


「立海から試合申請だなんて珍しいにゃあ…」
「しかも今週末って随分急ッスね?」


不思議がる部員を一通り眺めてから手塚に声をかける。


「ねえ手塚?その練習試合ってオーダーは竜崎先生が決めるの?」
「いや、今回は俺に一任されているが…。なぜだ?」
「じゃあ僕、幸村とやりたいな」


にこ、と微笑んで言葉を発すると、周りがざわめいた。目の前の手塚も少しだけだけど驚いた表情をしている。


「珍しいッスね。不二先輩がそんな風に試合やりたがるの」
「そうかな?越前、君とだってまた試合したいけど」
「何かあるのか?」
「乾が計算するほどのことじゃないよ。うーん、面白そうなことが好きなだけかな」


意味がわからないと首を傾げているみんなに笑っていると、フェンスの外から呼ばれていることに気付いて振り返った。


「周君、もう部活終わるー?」
「あと30分くらいかな」
「そっか。じゃあ私先に帰るね。頑張ってね、お疲れ様!」


手を振って帰っていった彼女を見送る。お互いが好きあって付き合うわけじゃないから、干渉しすぎない彼女の距離感が心地いい。

それに流石幸村の幼なじみ。部活のことに無責任に口を挟まない。


そんなことを考えていると、周りから声をかけられた。


「不二先輩、彼女ッスか!?」
「あれってうちのクラスに転入してきた…」
「うん。今日付き合い始めたんだ」


おお!!とテンションの上がった英二達に苦笑していると、乾が不思議そうに口を開いた。


「彼女は幸村と付き合っているのだと思っていたが…」


乾の言葉に、そういえばと言った表情で全員がこちらを向いた。
手塚まで気になるなんて、珍しいなあ。


「幸村の片思いなんだって。面白いよね」


笑顔で放った僕の言葉に全員の顔が引き攣ったのがわかる。


「週末の練習試合って…」
「…うわあ」


事情を察したレギュラー陣がひどいものを見るような視線を送ってきた。失礼だなあ。


(僕はただ、面白いことが好きなだけだよ)


早く週末にならないかと、今からわくわくする。

ああそうだ、彼女にこのことを教えなくちゃ。きっと喜んで見にきてくれる。

最高に面白い日になりそうだ。



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