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「ほら、カバン!」
ずぃ、っと俺の前に突き出された、装飾のジャラジャラ着いたカバン。
安ちゃんといっしょにデコったやつだ。
「ありがとー!ごめんねーわざわざっ」
帰ろっか、早く帰って着替えたいし!
そう無理にテンションを上げて安ちゃんに声をかけるけど、安ちゃんは動かない。
なんだか、悲しそうな顔してこっちを見てる。
「安ちゃん?どうし……」
「アイツと何かあった?」
アイツ。多分、とーやのことだと思う。
安ちゃんは、俺がとーやと付き合ってるのを知っている。
俺が呼び出しを受けて、安ちゃんとの約束を破ってしまうことも度々あったから。
「なん、で……」
「…ごめん、聡がどこにも見つかんなくて、ケータイ見ちまった…他のはなにも見てないから」
「…そっかぁ、……全然!安ちゃんに見られて嫌なもんなんか入ってないしっ」
そっか、ケータイ見たのか。
俺、多分メール画面開きっぱなしだったしね…そっかそっかぁ……
「まあ、お前が急に出てったから杉田関係だろうとは思ったけど」
「へへ……さすが安ちゃん」
俺のこと、よく分かってくれてるっ。
安ちゃんは、俺が話すのを待つようにその場を動かないし、喋らない。
いつも俺と同じくらいうるさくて、ちょっと女子に引かれちゃうくらいの安ちゃんなのにさ。
「俺ねー、とーやにフラれちゃったみたいっ」
「……!は、まじで…?」
「マジマジっ!へへ、ウケるでしょ………」
とーや、とーや。
その言葉を口にするたび、俺はとーやが恋しくて恋しくて仕方なくなるの。
もう俺のものじゃない、愛しいとーや。
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