15
「じゃあ、俺そろそろ帰るわっ」
ハッと気がついて時計を見ると、もう6時前。
多忙な安ちゃんを長居させてしまった。
「わざわざありがとうねー!」
「ほんとだよ!……でも、思ったより元気で安心した」
社交辞令のないのはいつものことだ。でも安ちゃんにそう言われ、なんだかむず痒い。
やっぱ俺風邪だ。なんか変だもん。
「みんな心配してたぞ!早く治して学校来い」と言われれば、誰だって嬉しいはず。
薬嫌いだけど、ちゃんと飲んで早く治そうと思った。
「じゃーねぇ」
「またなー!」
玄関まで送って、帰るのを見送った。
手を振ると、笑って振りかえしてくれる。角を曲がるまで見送ろうと後ろ姿を見守っていると、安ちゃんの足がピタリと止まった。
どうしたんだろ、と思ったとき、安ちゃんがバッと振り向いて叫んだ。
「ちゃんと鍵しめろよー!!」
「分かぁってるよおー!」
「……絶対、泣くなよー!」
「分かっ………泣くって、なにが?」
いきなりの安ちゃんの行動と発言に、おれの頭はついていかない。
何が、そう尋ねたのに答えは返ってこなくて、そのまま安ちゃんはくるりと身体を翻して帰ってしまった。
「泣くな、って言ったよね…?」
泣くな、じゃなくて、鳴くなとか?まあだからといってなにも思い浮かばないんだけどなあ。
家に入り、リビングでお茶を一口含む。
今日の安ちゃんはなにか悩んでた。というか隠してた?
「泣くな、ってなんだろ?メールしてみよぉかな…」
気にはなるけれど、数時間前まで重く怠かった身体が嘘のように軽かった。まだすこし暑く、熱はあると思うけど多分すぐ治る。
そのまま部屋に戻ろうと階段に足をかけたときに、再びチャイムがなった。
―ピンポーン―
静かに一度だけ響いたその音。
なんとなく安ちゃんではない気がした。取りあえず出よう、とインターホンを確認した。
「はあーい、どちらさまですかー?」
『………サト?』
びくりと身体が揺れた。
軽かった身体が一気に鉛のように重くなる。
「と…や……?」
なぜ。
ずっと聞きたいと、でも今はなんとなく聞きたくなかった声。
どうして。
さっきの安ちゃんの台詞が頭に浮かんだ。
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