19
修斗との思い出の全てが嫌なものな訳ではない。でも、だからこそつらいのだ。
完全に忘れ去ってしまいたいなら、記憶に鍵をかけてしまえばいい。でも修斗と会って感じた喜び楽しみも全て捨て去る勇気は、俺はないから。
「…会いたくなかった、…なかったに決まってんだろ…っ……」
自分に言い聞かせるような口調で呟く。
「怜………お前、」
修斗の口が開き、俺の名を呼んだ。
それにつられ顔をすこしあげようとしたとき。
バンッ、とたたき付けるような音が響き、一瞬ビクリと飛び上がった。
「怜っ!!」
「…え……」
「………チッ…」
するはずのない声がした。音のした方をみると、見知りすぎた顔。
え、だって、剛はもう俺を見放して………
でも確かにこっちに向かってくるのは鳴海と言う苗字と剛という名前を持つ彼で。
修斗が苦虫をかみつぶしたような顔をしていたのが横目に見えた。
「ご、う………?」
「行くぞ、怜」
「え、あ……!」
俺の目の前まできた剛を驚いた顔を見つめる俺は、たいそう変な顔をしていただろう。
剛は俺を手首を痛いほど強く握り、俺を引っ張っていった。
「いきなりすいませんでした。コイツは連れて帰りますんで、失礼します」
「……フン」
剛がまくし立てるように修斗に声をかけた。
修斗は不機嫌な顔をしていたのが気掛かりではあったけれど、俺は突然のことに全然頭が働かず、剛に手を引かれるまま生徒会室を後にすることになってしまった。
「ちょ……ごぉ、剛!」
「悪い、屋上まで待って」
俺の腕を引いたまま振り返りもせずにもくもくと歩く。
それにチクリと胸が痛んだ。
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