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***


「……あのねぇ」

「なにさ、さっきからずっとあのねばーっかり」



寮に帰宅してから鳴ったケータイ、表示は俺の親衛隊隊長様。

次の会議に覗きに来てほしいとのお願いに、話すついでにと部屋へ呼んだ。
ちなみに、今のヒナちゃんはオフモードらしく、ふてぶてしくソファーを占領している。


「いやあ、そのぉ……会長のことなんだけどねー…」

「会長?って、神谷さま?」

「うん…」

「神谷さまがどうかしたの?」


首をコテンと傾けて俺に尋ねる彼に、俺は今日委員長が言っていた話をした。


「その、会長って…セフレがいるのぉ?」



こんなことを今更聞いても、と思うけれど、聞かなければ胸のモヤモヤはおさまらない。

ヒナちゃんはああ、と相槌を打った。


「そりゃ、いるんじゃない?ていうか、いるよ」


ごく当たり前の様にそう言われる。

そっか、いるのか。
やっぱりな、そうだよな。



「なに、怜もセフレ欲しいの?」


そう言われ、思わず口に含んでいたお茶で噎せそうになった。


「い、らないよっ!」

「あ、そーなの?てっきり……」

即答すると少し驚いたような顔を向けられ、自分がどんなふうに思われているのか心配になる。


「前の会計様は有名だったけどね、ヤリチンで」

「…ヤッ………」


本当に、顔と性格にギャップがある。この容姿からこんな単語が普通に出てくるのには、きっと他の人が見たらびっくりするだろう。



続けるように、ヒナちゃんは言う。


「あとは、風紀委員長さまとかね。まああんな感じだし予想は出来るけど」

「……委員長ぉが?」

「知ってるの?」


尋ねられ、頷く。知ってるもなにも、さっきお目にかかったところだ。

「初め、あの人が風紀委員長ぉー!?ってびっくりしたんだぁー」

「はは、確かにね。でも仕事はそつなくこなすんだって」

「そうなんだぁ」


そうは言われたが、仕事をしたらセフレを持ってもいい訳じゃないだろ。
人のことには、口を出すつもりはないけれど。


きっと、この学園ではそれが当たり前なのだろう。
学校の上に立っている者達がそういうことをしていると皆知っていて、誰も咎めない。


つくづく変わった学校だな。


「ふーん……そっかあ…」


椅子に腰掛けて考えるは、あの男。

もしセフレがいるのが当たり前で、それが容認されていれば、例え恋人がいても他人と性交渉するのは当たり前なんだろうか、とか。
でも、例えその答えが是でも非でも…

(そんなの、腐ってる)





「怜?僕もう帰るよ」


ボーッと一点を見つめながら考え事をしていると、寛いでいたヒナちゃんが立ち上がっていた。


「うん、わかったぁ。ごめんね、わざわざ」

「全然、むしろ怜さまのお部屋に入れるのならいつでも呼んで頂いても」


急にスイッチが入ったヒナちゃんに目をパチクリさせると、ウインクされてしまった。



「ほんとに、またなにかあったら呼んでください」

「でも、もーしわけないから…」

そう言ってみると、不機嫌な顔をされてしまった。
背の小さいヒナちゃんに見上げられ、言い聞かせるように言われる。

「僕はあなたの親衛隊隊長なんですから、なんでも頼って貰わなきゃ困ります」


そのヒナちゃんらしい言い回しに思わず笑ってしまう。
困りますだなんて、一体何が困るんだか。でもそれがヒナちゃんの気遣いらしい。


「ありがとぉ、じゃあまたねー」

「失礼します」


周りの目を気にしてか、部屋を出て俺に一礼までして、ヒナちゃんは帰路についた。



俺は、ほんとに人に恵まれている。
変わった人が多いのは事実だが、以前に比べて本当によく笑うようになったのだ。


明日もまた、放課後は生徒会室。

憂鬱な気持ちは残るけれど、自分が忘れなければどうにもならないのだから。




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