7
俺が注文を終えて席に帰ってきた時、なんだか妙な空気があたりに漂っていた。
話をしていない二人と、それを遠くから見つめるギャラリー。異様な光景だ。
「ただいまーっ!」
「おかえり、サンキューな」
ふんふん、俺に対する返事は普通だ。
怒ってるわけではないらしい。
ふと副会長を見ると、もう定食に箸を付け終わっていた。
「では、僕はお先に失礼しますね」
「あっ、はい…さよぅならぁー」
席を立つ副会長を見つめる。
一緒に昼食をとりたかったが、食べ終わったのに引き止めるのも申し訳ない。
「あのっ、もし良かったらまた今度一緒に…お昼ご飯…………」
勢いまかせに口を開いてみたものの、なに言ってるんだと我に帰る。
俺、そんなキャラじゃねぇ。
「あ、…と……そのぉ…嫌だったらいぃんです、けど」
急に恥ずかしくなって語尾が段々小さくなる。
「……ふふっ、ありがとう」
副会長をチラリと盗み見れば、嬉しそうな副会長。
嫌がられてしまうかと思ったが、どうやら拒否の仕草は見えない。
良かった、と顔を綻ばせてから思う。
俺、今までこんなふうに思ったことがあっただろうか。
昔修斗と付き合っていた時にも、こんな風に緊張したりしなかったような。
よく分からない。
そう思って副会長をジッと見つめると、俺よりもほんの少しだけ高いところに合う副会長の目と合う。
「…でも、君の護衛さんが嫉妬してしまうから、良かったら今度二人で食べましょう?」
「……へ…?」
護衛って、誰。そう聞く前にふわり、と俺の頭に手が撫でた。剛の時とは違う、サラリと触れるだけのような撫で方。
「っ副会長!!」
「じゃあ、僕は行きますね。二人とも来週からよろしくお願いします」
今まで俺達の会話をジッ聞いていた剛が、いきなりガタッと椅子から立ち上がり、後ろからガシッとガードされた。
それにびっくりして副会長に挨拶するのを忘れてしまった。
「っなにー!!いきなり叫ぶからぁ、びっくりしたじゃん」
「悪い……副会長、油断も隙もねぇな……」
「え?」
剛がボソリ、と呟いた言葉に『副会長』というフレーズが耳に入る。
ピクリと耳が反応した。
「ねー、なんのはーなーしー?」
「なんでもないって」
「えーっ」
俺が聞いても、剛は教えてくれない。
俺が不平を漏らすと、剛は困ったように笑った。
「なに……どーしたの?」
最近、剛のこんな表情が増えた気がする。
俺に対して、だ。
(やっぱ、なんかしたっけ……)
「怜って、副会長のこと大好きなのな」
俺を見ず、笑ったままぽつりとそーいった、剛。
好き?俺が、誰を?
剛に言われたことが、理解できない。
俺は確かに副会長に会うと少なからず嬉しくなる。
でもそれは、その気持ちは、
「………………なんだろぉ…」
分からない。
先輩として好き、なのかも分からない。
中学でも部活はしていなかったし、知り合いの年の近い人なんて親戚か、…修斗だけだ。
修斗の知り合いにも何人か会うことが会ったような気はするが、なにせ厳つく、怖かったし。
「………………」
「…悪い悪い、いきなり変なこといって…今の話は無しにして?」
俺が悩んでいると思ったのだろう、剛はまくし立てるようにその話を終わらせ、いつもどおりの仕様もない話をはじめた。
(好き、って苦しいものじゃないのか)
さっきも感じた、微かな疑問。
もし副会長へのふわふわした気持ちを恋と考えるなら、昔の俺の修斗への気持ちは一体なんだったんだろう。
楽しい気持ちが、なかったわけじゃない。だけれどそれよりも苦しいことの方が多かったきがする。でもむしろ俺はこれが恋だと信じ、修斗を信じた。
あれがもし恋でなければ、今までの俺は何だったんだろう。
考えれば考えるほど分からなくなり、気分が下がった。
結局答えは出ずに、食堂をでたあとも自室で一人、眉間にシワを寄せながら考えることになる。
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