「苗字さん、応援きてくれてたんや。ありがとう。」

肩にタオルを引っ掛けて、白石くんが爽やかに微笑む。隣で汗を拭っていた忍足くんも、その声に反応したようにちらりとこちらを向いた。

全てのゲームを終え、どこの学校も徐々に片付けを始めた試合会場で。けれど試合を見たときのどきどきした感覚はまだ名前の胸に鮮明に焼きついていた。

「ううん、こちらこそありがとう。テニスの試合ってすごいんやね。白石くんもすごい強いやん。びっくりしたわ。」

「はは、よかったらまた来てな。……謙也も喜ぶし。」

「し、白石…!」

突然自分の名前が会話の中に引っ張り出されたことに驚いたのか、あわてふためいた様子で忍足くんが白石くんを向く。しかしそんな忍足くんにはお構いなしの様子で、白石くんは笑顔で続けた。

「いやあ、苗字さんにも見せたかったわ。苗字さんが応援席におるん見つけた瞬間、頬染めながら隠れてガッツポーズ決め込んどった謙……痛っ!」

「白石、余計なこと言わんでええから!」

ばしっと小気味のいい音を響かせて、恥ずかしそうに顔をかっと赤く染めた忍足くんが勢いよく白石くんの背中を叩いた。

その目の前で繰り広げられる二人のやりとりがなんだか面白くて、思わず口からくすりと笑みが零れてしまう。この慌てふためいた様子の忍足くんからは、さっきまで余裕の表情でボールを追いかけていた試合中の彼の姿は想像できないな、と思った。

「……ほなけど、忍足くんも格好よかったで。」

「えっ、」

「あの、よかったらまた試合ある日教えてな。」

精一杯の気持ちを込めてそう言うと、忍足くんは口を半開きにしたままで、固まっていた。その隣で白石くんが、にやり、口元に不敵な笑みをつくって忍足くんを眺めている。

「……お、忍足くん?」

「嬉しすぎて固まってんねん。苗字さん、こんな奴やけどこれからも謙也のことよろしゅう頼むな。」

そう言って白石くんがぱちんとウインクを決め込む。その言葉に込められた深い意味など今の名前には知る由もなかったが、名前は黙ってこくりと頷いておいた。


きらめき眩く春はめくるめく