日本がイギリスよりも低緯度にあると思って侮っていた。今回の旅で最初に分かったこと。日本の冬も十二分に寒い。

はあ、と両掌に息を吹きかける。土地勘を掴むためにと思って夜の冬木に繰り出してきたはいいが、出掛け際に慌てて荷物の中から引っ張り出してきた薄いカーディガンはまるで役に立っていなかった。夜の闇により一層際立って、吐き出す息が白い。

はあ、と今度は溜息を吐いて名前はちらりと隣を見上げた。比較的薄着の自分とは対照的に隣を歩くランサーは暖かそうなダウンジャケットを羽織っている。ああ、着ている服が初見のときと違うのはきっとケイネス先生かソラウ様の計らいなんだろう。おそらく十中八九は後者だろうけど。そろそろソラウ様のこの扱いの差にも慣れてきた頃ではあったが、それでも慣れたからといって何も感じなくなるわけではなかった。今でも少し恨めしくはある。

そんな中、ひときわ強い風がびゅうと吹いて名前はぶるりと身震いした。反射的に身を縮こまらせて肩を抱き竦める。寒い。カーディガンなんかじゃどうにもならない。やっぱり、一度コートを取りに帰るべきか…。そんな考えが頭を過ぎったとき、どうぞ、と隣から声がして、その次の瞬間には肩にダウンジャケットが引っ掛けられていた。

「…さすが、英国紳士。」

言って、まじまじとランサーを見上げる。思えばケイネス先生を思い起こしてみても、時計塔にいた頃の周りの面々を思い出してみても、こういった扱いをしてくれる人には恵まれていなかったように思うので彼の優しさがいたく心に染み入った。

「でも、これだとランサーが寒いでしょう?」

「いえ。俺は平気なので、貴女が着るといい。」

やんわりとそう言ってくれるランサーの心遣いが純粋にありがたかったので、ここは素直にその優しさに甘えることにした。ありがとう、と断りを入れてからダウンジャケットの袖に手を通せば、自分よりも幾分か大きな上着はまだ少しランサーの熱を残していてじんわりと暖かかった。


愛じゃないけど焦がれてる


(その優しさが愛であればいいのに。)