どうぞ、と言って綺麗にラッピングした小さな箱を差し出せば、案の定、ランサーは不思議そうな顔をしてそれを受け取った。

「これは…?」

きょとんとした顔で受け取った小箱を眺めているランサーに、チョコレート、と短く答えると、ああ、と何かに合点がいったかのような短い相槌が返ってくる。

もしやサーヴァントとして現界してきた際に、日本ではバレンタインデーに女性が男性にチョコレートを贈る習慣がある、という知識まで与えられたのだろうか。…まあ、わざわざそんな知識など与えられなくとも、あれだけ街のいたるところでチョコレート商戦が繰り広げられているところを見ればその意図が分かる気もするけれど…。

そんなどうでもいいことにぼんやりと思考を割いていると、突然くすくすとランサーが笑い出したので思考が中断され、頭が現実に引き戻された。それと同時にじわじわと胸に恥ずかしさが込み上げてくる。

「ど、どうして笑うの?」

「…いえ、失礼。まさか考えていることが同じだったとは、」

「え?」

今度は名前が頭の上に疑問符を浮かべる番だった。口をぽかんと開き間の抜けた顔をしている名前に、お忘れか、ともったいぶったような口調でランサーが言う。するとそれまで彼を映していた名前の視界が、急に真っ赤に染まった。

「2月14日は、イギリスでは男が女に薔薇を送る日です。」

目の前いっぱいに広がるように差し出されたのは、真っ赤な薔薇だった。真っ赤な薔薇の花束。差し出されるがままにおずおずとそれを受け取ると独特の匂いがふわりと鼻を掠める。

それはもうそのときはただただ驚きで頭も胸もいっぱいで、気の利いた言葉ひとつぱっと彼にかけてやることさえできなかった。少ししてようやく喉から紡ぎ出せたのも、ありがとう、という言葉だけ。けれどそれだけの言葉でも、ランサーは整った顔をふっと崩して微笑んでくれていた。


まともな愛し方