「ケイネス殿から伺った。貴女はここの次期卒業生首席とか。」

ぽつり、隣にいた男が零した言葉を聞いて、ぴたり、ダンボール箱に本を詰め込んでいた手が止まる。振り向いて見上げたその先には、つい先日、ケイネス先生の下にランサーの階級を得て召喚されてきた美丈夫の姿があった。両腕に分厚い本の山を抱え、その双眸はじっとこちらを見下ろしている。

ああ、いつもなら下手に人目につくと不味いからと霊体化していることが多かったランサーが今目の前で実体化しているのは、ここ、ケイネス先生の書斎ならば人目につく心配もないだろうからと、私が冬木に送る荷物を梱包するのを手伝ってくれているからだ。

そんな召喚してまだ日も浅いサーヴァントに、ケイネス先生が少しでも私の話をしてくれていたとは。驚きである。きっと必要最低限の情報だけではあるのだろうが、魔術師として尊敬している師が自身のことを話題に出してくれるというのは、少し嬉しかった。

「…まあ、時計塔で首席だったとしても、聖杯戦争ではせいぜい予備の魔力炉か雑用くらいにしか役に立たないでしょうけど。」

「そのようなことは、」

すかさずフォローを入れようとしてくれたランサーに軽く微笑むと、名前は黙って中断していた作業を再開した。ランサーが抱えていた本の塊を何も言わずに受け取ると、それらを黙々とダンボール箱に突っ込んでいく。その間もランサーはじっとこちらから目を離さず、そこに突っ立っていた。

「名前様、失礼ながら…我が主への協力が不服ですか?」

「まさか。ケイネス先生への協力を承諾したのは自分の意思です。理由はともかく、私だってケイネス先生が聖杯を手にすることを望んでる。」

あらぬ誤解を生みそうになったので、そこは語気を強めてしっかりと訂正しておく。ランサーの双眸を真っ直ぐに見詰めてひと息でそう言い切ると、先程まで訝しげに皺を寄せていた彼の眉間も少しは緩んだようだった。

「貴方と利害は一致しているわけです、ランサー。」

仲良くしましょう。

最後にそう付け加えて、そっと右手を差し出す。…ああ、私は握手のつもりで差し出したんだけれど、何を勘違いしたのか、ランサーは私の右手を取ると、恭しく片膝をつき、そこにキスを落とした。


沈むならどうか一緒に


(帰り道なんてとっくになくなっていた。)