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「本日をもちまして黒の旅団から本隊へ異動することになりました。」
首元まで隠れる堅苦しい服装に身を包み、背筋をぴんと伸ばして真っ直ぐに立ち、畏まって形式ばった言葉を述べてから、名前はルヴァイドの目の前で深く一礼してみせた。
けれど、それら一連の様子を眼前に受け止め、彼の口が数秒かけてようやく紡ぐことができたのは、そうか、という一言だけ、だった。そのルヴァイドの反応が気に食わなかったのか、さっと上げられた名前の顔に不服の色が宿る。
「今回の異動に際し、本隊の医療班が足りていないからと聞いたのですが。」
「議会がそう言うのならそうなのだろう。」
「ですが…それはそうとして、わざわざもともと人数の少ない黒の旅団から引き抜きますか。」
「それくらいお前の実力が買われたということではないのか。」
「ですが、それなら…私が抜けたあとの黒の旅団はどうなるのですか。」
「…お前に代わる新しい者が来るだけだ。」
まるで他人事のようにさらりと話すルヴァイドに、最初は少しむっとした表情で噛みついていた名前も、最後には、そうですか、とひどく落胆した様子で肩を落とすと、それ以上言葉を続けようとはしなかった。
名前にとってルヴァイドは彼女を黒の旅団に留まらせることのできる可能性を持った最後の切り札だったのだろうが、それがこうもあっさりと引き下がってしまったのだ。落胆するのも無理はない。
もちろん彼女が黒の旅団を離れたがっていないことはルヴァイドも痛いほど理解していたが、けれど議会の決定に背くことが決して許されはしないことだということは、それ以上に理解しているつもりだった。
「元気で。」
俯く名前の目の前に、おもむろに差し出した片手。驚いてルヴァイドを見上げた名前の瞳がくしゃりと細められる。
「ルヴァイド様も、どうかご無事で。」
握り返される両手。きつく握りしめられた先にある温もりを感じて、ルヴァイドは目を瞑る。
自分の右手を包むこの両手を、本当は自分の方に引っ張ってしまいたかった。本当に言いたかった言葉は、元気で、とか、そんな薄っぺらい言葉ではなかったけれど。
だが、議会の決定は絶対だ。それに彼女の身の安全のことを第一に考えると、いつも最前線に派遣される自分たちと一緒にいるよりも本隊と一緒にいる方が安全には違いない。そうやって、割り切るしかないのだ。
ルヴァイドは黙ったまま口を真一文字にをぎゅっと結んでいた。そうでもしなければ、言ってはならない言葉が喉から先に出て来てしまいそうだったから。
彼女の掌がゆっくりと離れる。ルヴァイドは出かかった言葉を呑み込んで、それからまた強く強く唇を噛んだ。
そう言えたらどんなに楽か
(行かないでくれ、と。)