周囲が明るくなってきたことに気がついて、名前の瞼が自然と上がった。シーツを引き寄せて上半身を起こすと、窓から差し込んでくる朝日を背景に背負ったルヴァイドがゆっくりとこちらを振り返る。

「起きたのか、名前。」

「うん。おはようルヴァイド。」

名前がとろんとした表情をふにゃりと崩して微笑むと、ルヴァイドもそれに釣られるようにしてそっと目を細めた。このような、普段の生活では絶対に見られないような柔らかい表情のルヴァイドが見られることこそ、恋人の特権のひとつだろう。(きっとイオスでもルヴァイドのこんな優しそうな顔は見たことがないと思うもの!)…と、そんなことを考えていたらまた口元が緩んでしまった。

緩みきった顔で名前がにやにやしていると、急にばさりと頭の上から何かが降ってきた。…上着、である。名前がきょとんとした顔でいつの間にかベッドの脇に立っていたルヴァイドを見上げると、ルヴァイドは何も言わずにくるりと背中を向けてしまったが、名前は彼が言いたかったであろうことをなんとなく悟った。

悟ったがまま、自分がいつも着ている服よりひと回りもふた回りも大きな服に袖を通す。昨晩にも感じたことだが、こうしているとルヴァイドはやっぱり自分とは違う「男の人」なのだなあということを思い知らされる。…改めて思い知らされると、思わず赤面してしまうけれど。

のろのろとベッドから降りると、部屋に充満しているコーヒーの香りがまだ覚醒しきっていない嗅覚を刺激した。

「こんな朝早くから刺激物ですか。」

カップにお湯を注ぐルヴァイドを見ながら名前が問うと、刺激物呼ばわりか、と小さく笑って、ルヴァイドは空いていたもうひとつのカップを持ち上げた。

「名前は?」

「ブラックで。」

「…………。」

「がつんと目を覚ますためです!みんなが起き出す前に早く自分の部屋に戻らないと。」

言いながら名前がごそごそと自分の服を拾い上げ始めると、その隣でルヴァイドが軽く息を吐いた。

「俺は別に気にしないんだが…。」

「残念ながら私と周りが気にします。」

名残惜しそうに言うルヴァイドにさらりと返答してから、フォルテとシオンさん辺りにはもう勘づかれてそうですけど、と名前が苦笑混じりに付け足す。

そんな彼女から視線を外してルヴァイドが先程よりもだいぶ明るくなってきた窓の外に目をやると、彼の口からは早くも本日二度目の小さな溜息が漏れていた。


とろんとした微睡みのなか


(意識を覚醒させるブラックコーヒーの香り。)