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「ローウェン砦、守備、隊長…?」
大きく息を吸い込んで、ひと呼吸。逸る心臓を落ち着かせるように深く息を吐いてから、名前は今しがた彼が述べた言葉を必死に反復してみせた。
ローウェン砦守備隊長。
噛み締めるように心の中でもう一度だけ呟く。彼に新しく与えられたという肩書きがどれほど重いものなのかということは騎士団について不学な名前にもなんとなく分かった。トライドラに住む者なら当然である。
思わず大きくなってしまった声で、おめでとう、と言うと彼は、シャムロックは照れたように笑った。
本当はこんな柔らかい微笑みができる彼が騎士だということ自体、未だに信じられないのだが。
「ああでも、それならいよいよ私もシャムロックのことを呼び捨てにできなくなるかしらねえ?」
「何故だい?私の肩書きが変わったって名前が大切な幼馴染だってことには変わりないだろう。」
至極当然のことのように言ったシャムロックとは対照的に、名前は苦笑混じりに微笑んだ。
「……幼馴染、かあ。」
幼馴染。それはきっと彼と自分とを繋ぐ最初で最後の関係だ。それにきっとこれからも彼にとって自分は幼馴染以下になることもなければそれ以上になることもないのだろう。
本当は彼のような騎士が幼馴染であるというだけでも喜ばしいことであるはずなのだが、そのことは名前になんとなく歯がゆい想いを残した。
「まあ、くれぐれも身体は粗末にしないでくださいね、シャムロックさま?」
「名前、」
わざとらしく敬語を使ってみせる名前に、困ったようにシャムロックが笑う。彼のこういうところは本当に今も昔も変わらない。
だがそんな彼の微笑みが何故だか今は少し遠く感じられて、名前は少し寂しげにそっと彼から眼を背けた。
隣り合わせで交わらない平行線
(何よりももどかしかったのは二人の間のこの空間。)