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ルヴァイドは、怒っていた。目の前には伏目がちに俯いた名前の横顔。包帯でぐるぐる巻きにされた彼女の片腕。彼女を覆うその白が嫌に目に痛かった。
「イオスがいなければ死んでいたぞ。」
いい放った言葉が厳しくなるのをルヴァイドはどうすることもできなかった。胸の中でもんもんと渦巻く行き場のない苛立ちが喉を通って外に出てくるときに語気を荒くさせてしまう。
けれど、本当はこの釈然としない怒りの矛先を向けるべき相手が彼女ではないことは分かっていた。本当に叱責されるべきは他でもない、自分自身だ。…そもそも彼女の怪我の原因は敵に背後を取られたのは自分にあるのだから。
目を閉じたルヴァイドの脳裏には数時間前の光景がまだ鮮明に焼き付いていた。自分の視界に飛び込んできた名前の背中も、彼女の武器が弾き飛ばされる瞬間も、彼女の肩に振り下ろされた相手の切先も。
ぞくりと背筋が凍った。
名前が無事だったのは本当に運が良かったからだとしか言いようがない。もともと前線向きではない彼女が自分と相手との間に飛び込んでくるなど、誰の目にも無謀なことだった。そのことに誰よりも早く反応したイオスが名前にひと太刀浴びせた相手を即座に切り捨てていなければ…おそらく彼女はこの程度の怪我では済まなかっただろう。あるいは…、
「すみません。」
しゅんとうなだれた彼女から呟くように零れた言葉にルヴァイドは深く溜息を吐いた。違う。自分はこんなことを彼女に言わせるために来たのではなかったはずなのに。
「とにかく、もう二度とあのような無茶はするな。そのような忠誠心はいらぬ。」
「忠誠なんかじゃないですよ。」
「何?」
「ただの忠誠なんかじゃないんです…貴方を守りたいと思っているのは。」
二人の間にふと沈黙が流れた。けれど不思議とそれは気まずい沈黙ではなく、なんとも言えない不思議な空気。名前は軽く息を吐くと、ルヴァイドを向いて力なく微笑んだ。
忠誠などではありません
(ただの、自己満足ですから。)