「夜中にそのような薄着で男の部屋に来るなど…、」

ソファに腰掛ける彼女の前に湯気の立つマグカップを置きながら、ルヴァイドはちらりとばつの悪そうな顔で名前を見た。

ありがとう、と言ってカップを持ち上げた名前の格好は、薄い寝衣にカーディガン。イコール、それでは真夜中に男の部屋を訪ねてくるのに些か心もとないように思える。

「…お前には危機感の欠片もないのか。」

「へ?」

だが複雑そうに溜息を吐いたルヴァイドの心など露知らず、彼を見つめる名前は呑気な顔で目をぱちくりとさせているだけだった。まさに、ルヴァイドの口からそんな言葉が出てくるなんて、とでも言いたげな顔である。

「やだなあ、だってルヴァイドにはそんな心配していないもの。」

さらりと言ってのけた名前にルヴァイドは思わず、どういう意味だ、とツッコミを入れそうになったが、その言葉はなんとかすんでのところで飲み込んだ。まったく…その根拠のない自信はどこから湧いて来るのだろうか。

「…余程信用されているのだな、俺は。」

もしくは男として見られていないのか。不本意ではあるが彼女の性格を考えると後者の方が有力なのだろう。容易にはじきだされた結論にルヴァイドから自嘲気味な笑みが零れた。

しかしそれと同時に胸の奥からふつふつと湧き上がってきたのは、そんな彼女へのささやかな加虐心。きっと彼女は彼のこんな忠告程度ではこの不用心さを改めるつもりはないのだろう。…それならば。

ルヴァイドは立ち上がると、カップを机上に戻しひと息ついている名前の脇に腰を下ろした。驚いたような不思議そうな顔でルヴァイドを見上げる名前に、にこり、と意地悪く口の端を上げて彼は彼女との距離を縮める。

え、と小さな声が漏れた名前の背中に片手を回し、もう片方の手を彼女の片手に絡めてゆっくりと体重をかけると、彼女の身体が背中からゆっくりとソファに沈み込んでいった。

肩からするりと流れ落ちたルヴァイドの長い髪が名前の頬をくすぐる。驚きに固まる瞳には彼と天井とが一緒くたに映っていた。…要するに瞳に映っている自分の姿が確認できるほどにふたりの距離は近いわけで。

「なっ…、ルヴァイド、何の冗談…っ!」

名前は咄嗟に空いている方の片手でルヴァイドの胸を押し返そうとしたが、所詮は女の細腕一本。覆い被さった彼を退かせるだけの力には成りえない。

「残念だったな、俺も男だ。」

そう言い放ったルヴァイドの言葉が合図になったように、彼は彼女の反応を待つでもなく、ゆっくりとその首筋に顔を埋めた。


どうにかなるなんて思うなよ