第四輪

誰かが犠牲にならなければ

××

………誰も傷つかない世界って、なんでこんなにも難しいんだろうね

誰も傷つく事がイヤなのに、イヤだからこそ、誰かを傷つけちゃう

なんだかさ、それって凄く虚しいよね

私の考えてた事って、結局夢でしかなくて、絵空事で、笑いものだったのかな


ねぇ、円堂……ごめん


××


研崎竜一はモニター部屋から実験室の様子を眺めていた

モニターには大量の必殺技を受け続けている風丸亜紀が映っている

その様子を見て、研崎は更に笑みを深ませた


「なんて素晴らしい実験体なんでしょう」


あれだけの必殺技を受けながら未だ立ち続けている

並の人間では到底できない精神力と体力、両方を持ち合わせた実験体

こんなにも素晴らしい実験体を目の前にして、研崎の心が躍らない筈は無かった


元々、彼女をエイリア学園に引き抜こうとしたのはグランだった

なぜグランが彼女を引き抜こうとしたのか最初はわからなかったが、今ならわかる気がする

良く言えば彼女は素晴らしいのだ、所謂聖人君子にも近い

悪く言えば彼女は馬鹿らしい、現実を見ていない

彼女は仲間や友を絶対に見捨てたりなどしない

その証拠に今だって必殺技を受け続けているだけで反撃などしようともしていない

だが、それは一般人からみたら只のキチガイなのだ

あんなにも傷つけられながら、尚も反撃しない彼女は頭が狂っている


……だからこそ、グランは彼女に惹かれた………いや、違う、グランは彼女があの子なのではと期待しているのだ

昔、お日さま園に彼女によく似た子供が来たことがあった

グランは期待しているのだ、彼女が、あの子が自分達を救ってくれる事に


「……ふむ、実に馬鹿らしい話ですがね」


確かに彼女はあの子に似ている

だからと言ってあの子である保障はない

そもそもあの子なら何故グラン達を見て何も思い出さないのだ

友を絶対に救うと言うなら、絶対に友のことは忘れない筈

まぁ、この世に絶対の出来事など無いのだがそこら辺は仕方ないのかもしれない


「さて、そろそろ次の実験の用意でもしますか」


研崎竜一は吉良星次郎の復讐になど興味無い

彼はただ、自分の目的が果たせればいいのだ


××

実験が終わり(そもそも何の実験だったのだろう)、フラフラになりながらも吉良星次郎の部屋へと向かう

体中が痛い…ずっと必殺技を受け続けてきた所為でもあるんだけどね

それでも私は吉良の元へと急ぐ

許せなかったのだ、そっきゅん達を巻き込んだ事が

一歩一歩、前へと進んでいく


何時間掛かったのかわからなかったけど、なんとか吉良の部屋の前に辿り着き、扉を開ける

扉を開けるとやはりそこは日本庭園だった

…部屋の中央、畳の部屋で吉良は何時もどおりお茶を点てながら座布団に座っていた

ゆっくりと、部屋の中央へと移動する


「おや?どうしましたか?」


吉良は私が目の前で立っていても、変わらずあの温和な顔で私を見つめる


「どうしてそっきゅん達を巻き込んだ」


できるだけ冷静に、怒りを悟られないように無表情で言う

それでも吉良は私を見ずにお茶を点て続ける


「っ、あいつ等は、まだサッカーができる体じゃないんだぞっ!」


そんな反応に苛立ち、今度は少しだけ声を荒げ、吉良を睨みつける

だが吉良はやはり平然と点てたばかりのお茶を飲んでいく


「…私の計画の為です」


お茶が飲み終わり、無常な顔で、無情な声色で吉良はそう言った

瞬間、頭に血が上っていく

ワタシノケイカクノタメ?

なにそれ、意味わからないんだけど


「っ、ふざけるな!!」


胸倉を思いっきり掴んで殴ろうとする

私だけ、私だけでよかったじゃないのか?

だから、私は……こんな奴等に


吉良は私に胸倉を掴まれているというのに、やはり平然と言い放つ


「いいのですか?あなたの大切な仲間が傷ついても」


っ、ぅ…


「覚えておきなさい、私達は何時だってあのチームを壊す事ができるという事を」


ゆっくりと、手を放していく

殴ろうとしている腕を必死で押さえつける


「仲間が傷つくのが嫌なのですか?」


吉良は私が手を放すと再び座布団にすわり、聞く


「当たり前だろっ!!」


そっきゅん達やはるなんが傷つくなんてまっぴらゴメンだ!!

あいつ等が傷つかないよう、私はここに居るって言うのに


「だったら、あなたが犠牲になればいい」


冷たい声で私に言う

私が、犠牲に?


「あなた1人があの実験に耐え切ることができれば、他の人たちに手を出すのは私が研崎に言って止めるようにしましょう」


さぁ…どうします?


悪魔が私に囁く

私が犠牲に

そうすれば


喉が自然と鳴る

熱くもないのに汗が大量に出てくる

拳をぎゅっと、強く握り締める

私が…


「さぁ、答えをどうぞ?」


私の答えは、最初から決まっていた



「……わかった、俺が犠牲になる」



だから、あいつ等には手を出さないでくれ





あせび


(犠牲)

(何時の時代だって)

(誰かが犠牲にならないと始まらない)

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