ゆっくりと顔が近づいてきて、浅く咥えたエクレアの欠片を取られる。一瞬唇が触れ合って、またすぐに離れて。咀嚼するその顔は、予想どおり険しい。
「……甘い」
ごくりと呑み込んだ後の吐き捨てるような一言に、俺は思わずムッとしてしまう。
「当たり前だろ。まずそうな顔で食べるなよ、もったいない」
そういう顔も、腹が立つぐらいきれいなんだけど。
つい見惚れてしまえば視線が絡まる。空いた隙間を詰めるように顔が近づいてきて唇を捕らえられた。
挿し込まれる舌は温かくて、カスタードの味が唾液と混じりあっていく。
「……ん、んっ」
ぐるりと舌で口の中を掻き混ぜられて、鼻から漏れる声は甘ったるい。
そのままパイプベッドに押し倒されると消毒薬の匂いが微かに鼻を掠めた。
この狭い空間をぐるりと囲う白いカーテンを閉めてしまえば、2人だけの閉ざされた空間が出来上がってしまう。
「理玖」
名前を呼ばれて目を合わせれば、見下ろすふたつの瞳はもう情欲に濡れてる。
取り巻く温度が一段高くなって、俺はふと思う。
ここって温室みたいじゃない?
「はい、どうぞ」
エクレアの対価を支払うために、俺は自らネクタイを解いていく。
保健室の主、国武未尋は淫行教師だ。
この学校を含む2つの大学、4つの中学、高校、3つの小学校、幼稚園及びインターナショナルスクールを擁する学校法人を将来継ぐ立場でありながら、本人曰く戯れに一高校教師としてぶらぶらしてる。
学校経営に携わる前に教師の立場を経験したいというのは体のいい口実。
『許される間は自由に遊びたい』
憎たらしいぐらいきれいな顔で笑いながら、9歳上の教師はこうして今日も俺と淫らな行為に耽る。
組み敷かれて、ボタンを全部外されていく。
はだけたシャツの隙間を這う手の熱さに身体が震える。カチャカチャと金属の鳴る音がして前を開けられれば、硬く張り詰めたそれが押し上げるように出てくる。上から滑り込んできた掌に直で触られて腰が浮いてしまう。
「あ、ふっ……」
握り込まれたまま動かない手に焦れて情けない声を出せば、にやりと口角を上げて笑う。
「もっと脚開け、バカ」
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