「何て言うんだ」
「 ─── え?」
「お前の名前」
波に攫われて海の底へと引きずりこまれるように、名前も知らない行きずりの男と身体を重ねる。
「………郁」
いくらきれいな顔をしていようと、肉づきの薄い身体は間違いなく女とは違うものだ。
下肢に手を伸ばせば、男の象徴は硬く張り詰めていた。
それを包み込むように握り込んで親指の腹で確かめれば、その先端はもう蜜に濡れそぼっている。
初めて手にした他人のものを、俺はゆっくりと扱き出す。
「ん、あっ、あァ……ッ」
吐息と共にこぼれる先走りが、俺の手を濡らす。そのぬめりを絡ませるように上下に動かしていくうちに、弾力のある感触が掌の中で更に硬さを増していった。
「……あ、一志、さ……」
見上げる苦しげな顔はあまりにも官能的で、喘ぎ声を塞ぐようにまた口づけた。
「ふ……、ん…ぅ…ッ」
くぐもった声が喉の奥で鳴る。背中に回された両手には痛いぐらいに力が込められて、その身体を抱き寄せながら強く刺激を与えていけば、密着した上半身が強張って震え始めた。
「 ─── あ、あっ、出る……ッ」
上擦った声と共に、先端から派手に白濁が放たれる。
何度も下肢が痙攣して、やがてぐったりと弛緩し、ずるりと腕の力が抜けて離れていく。
掌で何とか受け止めたそれを、俺はティッシュで乱暴に拭い捨てた。
「一志さん……」
掠れた声と共にゆっくりと起き上がって、郁は俺の下半身に手を伸ばす。
腹に付きそうなぐらいにそそり勃つものを握り込みながら、郁は艶やかに笑う。
耳もとで囁かれるのは、甘やかに響く言葉。
「俺のこと、忘れらんなくなるぐらい、いっぱい感じて」
郁は屈み込んで股間に顔を近づけると、何の抵抗もなくそこを咥え込んだ。
熱く濡れた口内に包み込まれれば、背筋を強烈な快感が駆け上がる。
控えめなリップ音を立てながらの手と口を使った奉仕は、一夜限りの女たちと比べても群を抜いていた。
生理的な欲求を満たす相手に、男も女も関係ないのかもしれない。
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