「本当だよ? もうずっと前だけどね。その時私は高校1年生で、雄理先輩はお兄ちゃんの仲のいい友達だった。だから私、雄理先輩が誰を好きなのかもすぐに気づいちゃったんだよね」
ずっと見てたから。そう付け足す綾乃に、俺は掛ける言葉が見つからなかった。
「でも、不思議とそこまでショックじゃなかったよ。大好きなお兄ちゃんと、大好きな雄理先輩がうまくいけばいいなあって、本当にそう思ったんだ。だから、今お兄ちゃんたちがこうやって仲良くしてるのがすごく嬉しくて、何だか夢みたい」
ふふ、と笑う綾乃は、言葉だけじゃなくて本当に喜んでるように見える。
「だから、お兄ちゃんたちにはずっと幸せでいてほしいなって思ってる」
キラキラした瞳でそんなふうに言われてしまえば、俺はもう何も言えなくなる。
だから、綾乃には敵わないんだ。
「申し訳なさそうな顔するの、やめてよね。もうとっくに済んだことで、今は全然何とも思ってないんだから。 雄理先輩がお兄ちゃんのことすごく大事に考えてくれてるのは、私にもよくわかるよ。だからお兄ちゃんは、何も怖がらないで雄理先輩に任せとけば大丈夫」
綾乃の言葉に戸惑いながら俺は天井を見上げる。こうして2人で並んで寝転んでいると、子どもの頃を思い出す。最後に一緒に寝たのっていつだっけ?
「お父さんやお母さんも、お兄ちゃんが幸せだったらそれでいいと思ってるはずだよ。色々あったし、余計ね」
「……そうかな」
「そうだって。絶対、ね?」
何だか俺はいつも綾乃に背中を押されてる。
「綾乃、ありがとう」
ぽつりと礼を口にすると、嬉しそうに俺を見て笑う。
「うん。お礼はラブラブのキス写真でいいからね」
「何だよそれ」
呆れてそう言えば、綾乃はクスクス笑いながらとんでもないことを言う。
「写りのいいのでお願い。携帯の待ち受けにするんだから」
「意味わかんないんだけど」
「いいよ、雄理先輩にもらっちゃうもんね」
そうやって無駄口ばかりを叩いているうちにだんだん眠気に襲われて、俺は綾乃とひとつのベッドで寄り添いながら寝てしまっていた。
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