「雄理先輩は、お兄ちゃんのことが心配なんだよ。だから、自分のものだってアピールしたいっていうのもあると思うし」
「はあ?」
「ほら、お兄ちゃんって、雄理先輩と一緒にいるようになってから、何だか変にエロくなっちゃったもんね」
変にエロくなったって、何だよそれ。
呆れる俺のことは気にもせずに、綾乃はごろんと仰向けに寝そべって俺を見上げてくる。
「雄理先輩は堂々としてたいんだと思う。きっと自分の恋人だって、言いふらしたいんだよ。お兄ちゃん、愛されてるね」
「いや、え? そういうことなのか?」
違うと思う。
綾乃の言うことはいつも突拍子ないから、話半分に聞くに限る。
「うちのお父さんとお母さんだって、大丈夫。ていうか、もう薄々気づいてる気がする」
その言葉に、ドキリと心臓が大きな音を立てて鳴る。そうなんだ。俺がちゃんと真剣に説明すれば、きっと反対されることもないだろうし、わかってくれるとは思う。
でも、俺たちは付き合ってその延長に結婚があるわけじゃない。孫の顔は見せられないなと思うとやっぱり後ろめたいし、申し訳ない。
「……実は私、失恋しちゃったんだよね」
唐突に切り出した綾乃の声が、わざとらしいぐらいに明るく響く。
「だから、これは私の失恋慰安旅行ってとこ。まあ、お兄ちゃんのお陰で元気出たけどね」
向けられる微笑みは少し淋しげで、無理してるのがわかった。
いつまでも生意気な妹だと思ってたけど、綾乃だってもう18歳の女の子で、人並みに恋もする。何だか胸が痛くなって、俺もあえて軽く聞こえるように言う。
「へえ、見る目のない男だな」
「そうでしょ? 私もそう思うよ」
ふふ、と笑う綾乃の隣に俺も寝転んでみる。その身体から漂うのはシトラスの香り。同じボディソープを使ったはずなのに、そこには女の子のいい匂いがプラスされてる。
「そういえばさ。私が雄理先輩のこと好きだったって、お兄ちゃん知らないでしょ」
「……え?」
勢いよく身体を起こせば、含み笑いをしながら悪戯っ子のように瞳を輝かせて俺を見つめる綾乃の顔が真近に見えた。
「その顔、嘘だと思ってるよね」
こうして至近距離で見れば、少し会わない間に綾乃はまた大人っぽくなってる。女の子って、すぐにきれいになっていくんだな。俺の方が2つも年上なのに、置いてきぼりを喰らってる気分だ。
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