あいつめ、綾乃に言ったな。
なぜだかわからないけど綾乃は雄理と仲がよくて、頻繁に連絡を取り合ってる。
その2人が俺を間に入れずにやりとりしてることに何となく疎外感を感じるけど、まあそのお陰で俺は親の借金の方にデリヘルで働いてたところを雄理に助けてもらうことができたんだから感謝してる。
それでも、雄理が綾乃に言われるままに俺との写真をこっそり撮って送ってるのはどうかと思ってるんだけど。
「喧嘩っていうほどでもないけど、まあそんなとこ」
俺は溜息をつきながら、渋々頷く。興味深そうな綾乃の顔を見る限り、きっとその内容だって聞いてるに違いなかった。
『陽向。お前とのことを、ちゃんとしたいんだ』
真剣な顔でそう切り出す雄理に、俺は返事ができなかった。
付き合って同棲して1年半。男同士ってことに引け目を感じて、俺は今でも周りにこの関係を公言することができずにいる。
内緒にしておきたいって言ったのは、俺だった。だって、別に誰かに認めてもらう必要なんてない。俺はともかく雄理が変な中傷を受けるようなことがあったら、絶対に嫌だから。
けれど、同棲を始めて慌ただしかった生活が落ち着いてからは、俺の胸の内によくわからない不安が頭をもたげ始めてきた。
そんなことは考えたくないけど、もしも雄理と俺がこのまま別れてしまったところで、誰にもわからないし、はたから見れば何も変わらない。そんな関係って、何となく心許ないというかうまく言えないんだけど、そんな感じがして。
もやもやしたわだかまりは、どんどん影を濃くしながら俺の中で大きくなってる。
幸せなのに、怖いんだ。
拭い切れないわずかな後ろめたさも、何の保証もない2人の関係も、時折無性に俺を不安にさせる。
同じ大学には通ってるけど、他の人の前では仲のいい友達のふり。雄理はモテるから、女の子から声を掛けられる度に適当にはぐらかしてることも知ってる。この関係はお互いの親にも言ってなくて、もちろん俺たちが一緒に住んでることは知ってるけど、今でも高校時代からの仲のいい友達同士がルームシェアしてるぐらいにしか思ってないはずだ。
つまり、雄理と俺の関係を知ってるのは、高階さんと綾乃だけ。
それが嫌だと雄理は言う。今までは俺の気持ちを尊重して我慢してきたけど、本当は親にも周りの友達にも、ちゃんとわかってもらいたい。雄理が言いたいのは、どうやらそういうことらしかった。
俺は別に後ろ指さされてもかまわない。でも、雄理はそれじゃ駄目だ。親だってびっくりするだろうし、悲しむかもしれない。
だから、言わなくてもいいことをわざわざ言う必要なんてない。
『ちゃんとするって何だよ。俺と雄理がわかってれば、それでいい話だと思う』
そう言う俺に、雄理は首を縦に振らなかった。
結局お互いの言い分は平行線。変な空気になって、口も聞かずに気まずいまま雄理は遠征に行ってしまった。
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