Fortunate Kiss[2/7]

雄理(ユウリ)と喧嘩した。



正確に言えば喧嘩とはちょっと違うかもしれないけど、とにかくギクシャクしてるのは違いない。

一緒に住み始めて1年半。2人とも口下手で言葉足らずだから、ちょっとした口喧嘩ならたくさんしてきた。それでも、その時に言いたいことを言ってお互いスッキリして仲直りする。それの繰り返しで今までうまくやってきたし、少なくとも、俺はそう思ってた。

でも今回は何となく気まずくなってから結局仲直りもできないまま雄理が柔道の遠征試合に行ってしまって、この週末は俺1人がこの家で留守番することになった。

俺のバイト先である高階さんの事務所は休みだし、何もすることがなくて手持ち無沙汰だ。

気晴らしにどっかでぶらぶらしようかなと出掛ける支度をしてた土曜日の朝、突然妹の綾乃から電話が架かってきた。


『お兄ちゃん、今暇でしょ? 暇だよね!』


『いや、何で決めつけてるんだよ』


『だって、暇って知ってるもん。雄理先輩、今いないんでしょ? そっちに遊びに行くから待っててね!』


有無を言わさず押し切られて、高速バスで綾乃が荷物片手に上京してきたのが、昼過ぎ。
綾乃がこっちに来るのは実はこれが初めてだった。


『わああ! お兄ちゃん、久しぶり! 遊ぼう!』


すごい勢いに呑まれながらランドマークやらショッピングセンターを矢継ぎ早に回らされ、夜になってお腹が空いたと入った居酒屋で酒を頼もうとするのをお前は高校生だろうと必死に阻止して、なぜだかカラオケに付き合わされて変な合いの手まで強要されて、帰って来たのが午後11時半。

もう、クタクタだ。

綾乃を先に浴室に押し込んで、俺も続いて風呂から上がればもう寝てると思いきやリビングのソファベッドにちょこんと所在なさげに座ってた。


「なんだ、まだ起きてたのか」


「うん。目が冴えちゃって」


「興奮し過ぎなんだよ」


呆れてそう言えば、綾乃は悪びれもせずに「だって、楽しかったんだもん」と笑う。

1LDKのこの家はもともと雄理が1人で住んでて、そこに俺が後から転がりこんできたという経緯があるんだけど、そう言えばここに誰かを入れるのは初めてだなと気づいた。

綾乃もこの春から受験生だ。綾乃は一時的に親父の工場が傾いた関係で、同じ高校で2年生をやり直してる。別の高校に転校することだってできたんだろうけど、綾乃は『仲良くなった同級生と同じ学校に通えて、1コ下の子とも仲良くなれるなんて、なかなかお得だと思う』なんてポジティブ過ぎることを言って高校に復学した。そして実際に、学校生活をそれなりに楽しく送ってるようだった。

綾乃は強いと思う。それは俺にはない芯の強さだ。


「お兄ちゃん、ちょっとここ座りなよ」


改まって呼び掛けられてぽんぽんと綾乃が叩く隣に腰掛ければ、途端に窺うような口調で尋ねてくる。


「雄理先輩と喧嘩したでしょ」


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