「そうか?」
ユウが苦笑する。
切り分けてお皿に盛り付けられたケーキをフォークで掬う。軽い食感の生クリームとスポンジは、口に入れれば緩やかに溶けていく。
ユウがこんな風に準備をしてくれていたことを考えると、自然と笑みが零れた。
家を飛び出してユウのところへと逃げ込んでから、半年が経つ。
長いようで短かった準備期間は、もう終わりを告げようとしていた。
「ユウは食べないの?」
お皿とフォークは1組しかなかった。ユウはかぶりを振りながら答える。
「甘いものはあまり好きじゃない。アスカが明日残りを食べればいい」
「そんなの駄目だよ」
微笑みを浮かべながら、ユウは僕が食べるのをじっと眺めている。
淡い光に照らされて美しく揺らめく鳶色の瞳。
その瞳を見ると、どうしても僕はサキのことを思い出してしまう。
1年前の誕生日は、サキがお祝いをしてくれた。そのときのことが脳裏に鮮やかに浮かんで、途端に刺すように胸が痛んだ。
あの頃はまだサキの病気もわかっていなくて、僕たちはずっと一緒にいられると当たり前のように信じていた。
早くサキに追いつきたいと思っていた。
けれどもうそんな心配はいらない。サキは永遠に25歳のままだ。
このまま生きていけば、僕はサキの年齢を超えてしまう。
「……ユウ」
お皿の上に残ったのは、ホワイトチョコレートの誕生日プレート。
とても薄くて繊細な作りのそれをフォークでそっと掬いながら、僕は唇を開く。
「一緒に食べて」
口元まで持ってきたプレートを咥えてユウに顔を近づければ、形のよい唇が開いて受け取ってくれる。
僕たちはチョコレートを手繰り寄せるように唇を合わせる。
互いの口の中で溶かすように舌を絡ませれば、甘ったるい味が口いっぱいに広がった。
まったりと唾液を交換しながら味わっていくと、このまま融けてしまいそうな気がした。
「抱いてほしい……」
唇を離して願いを口にすれば、ユウは目を開けて僕を優しく見つめながらまた口づける。
キスを繰り返すうちに、甘みは次第に薄まっていく。
ソファから腰を上げてユウの手をそっと引くと、立ち上がってまた深く唇が重ねられた。
─── 気のせいだろうか。さっき目が合ったとき、ユウが少しだけ淋しい瞳をしていたのは。
「あぁ、ん……ッ」
与えられる快楽に身じろぐ度に、ベッドのスプリングがしなやかに軋む。
奥の弱い部分を何度も指で擦られて、僕の先端はひっきりなしに雫を垂らしている。
身体の中の熱を最大限に引き出すような愛撫に何度も浮かされてはより深いところへと沈んでいく。
「ユウ……」
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