Dawning Kiss side A[2/6]

他の車でも運転できるかを心配していたけど、それを伝えた途端ユウはレンタカーを借りてくれた。

1週間ほど背の高い大きなバンで練習するうちに、車幅を掴むコツがわかってきて、どんな車でも普通に運転するぐらいなら支障はないと思えるようになった。

今日は、最後の高速教習になるだろう。


「そろそろ帰ろうか」


ユウの提案に僕は頷く。ずっとこうしていてもいいぐらいに気分は高揚していたけど、そんなわけにもいかなかった。


「そうだね、ありがとう」


アクセルを少し踏み込めば、ランボルギーニが重厚な唸り声をあげる。

全てを覆う夜に抱かれながら、僕たちは帰路につく。



ユウのマンションでシャワーを浴びて、そのまま寝室に入る。

照明の消えた部屋には、先にいるはずのユウの姿がなかった。


「……ユウ?」


リビングにいるのかもしれない。暗闇の中ベッドまで歩いていくと、背後から足音がした。

振り返れば仄かなオレンジ色の灯りに浮かび上がるユウの姿が目に入った。

ゆっくりと歩みを進めるユウの手が持つトレイに乗せられているのは、ろうそくの灯る小さなホールケーキだった。

ボトルと2つのシャンパングラス。お皿とフォークに、細長いナイフ。

ひとつひとつをソファの前のローテーブルに置いていく。


「アスカ、おいで」


ソファに掛けたユウの元まで歩み寄って、僕も隣に腰掛ける。


「憶えててくれたんだね」


僕の言葉に頷きながら、ユウはボトルの封を開ける。

よく見ればそれは、シャンパンじゃなくてシャンメリーだった。お酒を飲めない僕に対する気遣いに他ならない。


「せっかく20歳になったのに、子どもみたいだね」


僕の言葉に微笑むユウは、手際よくグラスに炭酸を注いでいく。

透明なガラスの中で細やかな気泡がキラキラと輝く。

白い生クリームの小さなホールケーキには、炎の灯る細長いろうそくが2本。

イチゴとブルーベリーがデコレーションされていて、真ん中にホワイトチョコレートでできた繊細な薄さのプレートが乗っていた。


"Happy Birthday"


「誕生日おめでとう、アスカ」


「ありがとう」


そっとろうそくを吹き消せば、辺りは闇に包まれる。

ユウが手元のリモコンで照明を点けてくれた。ダウンライトが2灯、微かな明るさでほんのりと僕たちを照らす。

グラスを手に、僕たちは乾杯する。


「こんな夜中にケーキを食べるなんて、なんだか悪いことをしてる気分だ」


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