壁の掛け時計が午前0時を指した途端、耳元に唇が寄せられる。
『飛鳥、誕生日おめでとう』
ベッドの中でそう囁かれて、抱きしめられたまま髪を優しく撫でられる。
その心地よさに酔い痴れながら顔を上げると、煌めく鳶色の瞳が僕を映していた。
『ありがとう、沙生』
愛する人を見つめてそう言えば、そっと唇が寄せられてそのまま口づけを交わす。
舌を絡ませるうちにさっきまでの熱の余韻が身体の奥でチリチリと燻る。
『もう19歳だなんて、大きくなったね』
唇を離した途端、感慨深げにそんなことを言われて思わず笑いが零れた。
『親戚のおじさんみたいな言い方だ』
『飛鳥が赤ちゃんの頃から知ってるんだから、そんな感じだよ』
幼馴染みでもある年上の恋人は、優しく微笑みを返してくれる。
沙生は本当にきれいな顔をしているから、僕はうっとりと見惚れてしまう。
沙生に見つめられる度に、心臓がドキドキして止まらなくなる。幾ら身体を重ねてもそうなるのは、僕がまだ大人になり切れていないからだろうか。
沙生との6歳の差は、これからもずっと埋まらない。仕方がないことだけれど、僕にはそれが少し歯痒い。
沙生の僕に対する気遣いが、恋人というより年下に対するものだと感じる度に、もっとこの人に釣り合うようになりたいなんて思ってしまうから。
『早く大人になりたいな』
思わずそう呟けば、沙生は僕の瞳を覗き込んで、ゆっくりと言い聞かせるように唇を動かす。
『大丈夫。どんな飛鳥でも大好きだよ』
そういう優しいところも、本当に好きだ。
『沙生、愛してる』
こんな僕が口にするつたない愛の言葉に、沙生は返事の代わりにキスをくれる。
緩やかに、想いが流れ込むような口づけ。
何度も舌を絡めて弄ぐり合えば、心まで融かされそうな熱がチリチリと生まれてくる。
『沙生……』
名を呼べばまた吐息ごと唇を塞がれてしまう。
互いの存在を確かめ合うように肌を合わせながら、与えられる全ての感覚に心地よく浮かされて僕は身体の中に沙生を沈めていく。
*****
真夜中の高速道路が好きだ。
暗い道路に車を滑らせれば、吸い込まれそうな闇に宝石を散りばめたようなイルミネーションが流れていく。
座面の低いイタリア車は、低空飛行をする鳥のように地面を駆け抜ける。
「上手くなったな」
低く響く声に、僕はそっと微笑みを返す。
「ユウの教え方がいいからだよ」
運転免許を取ったのは、大学に入る前。それから運転なんてしたことのなかった僕は、この数ヶ月ユウに毎日のように付き添ってもらって練習をした結果、それなりに上達することができていた。
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